静岡県静岡市と藤枝市の境にある宇津谷峠(うつのやとうげ)には、7世紀に整えられた中央(京都)と地方を結ぶ国道「蔦の細道(つたのほそみち)」が残っている。蔦の細道は宇津谷峠を越えるためにつくられた最古の国道と言われており、伊勢物語にもその記述がある。平安時代末期の12世紀末には駅伝制が廃止され、国道が主要な道となったため、多くの旅人がこの道を歩き、平家物語にも蔦の細道の記述がされている。
1590年に豊臣秀吉が小田原征伐の折り、大軍を通すために東海道を整備するまでは峠越えの主要なルートとして使われており、東海道が整備されても文人憧れの道として親しまれていた。
宇津ノ谷峠を越える蔦の細道、および東海道は現在もハイキングコースや散歩道として整備されているため、地元民に親しまれている。
今回は歴史浪漫を感じられる往復約3.5km、それぞれ約30分ほどで踏破できる蔦の細道&東海道の歴史ハイキングの魅力を紹介しよう。
■往路:平安時代につくられた蔦の細道

蔦の細道ハイキングのスタート地点は、藤枝市にある「つたの細道公園」。ここはハイキングや公園利用者のために無料駐車場が整備されており、50台程度停められる。公園には公衆トイレやテーブル・イスつきの東屋があるので、ここでしっかりハイキングの準備を整えよう。


蔦の細道は文人憧れの道だったこともあり、公園には歴代の歌人が詠んだ和歌が展示されている。蔦の細道は標高210m、約1,500mの道のりを踏破する必要があるので、公園をゆっくり歩いて軽い準備運動をしておこう。

公園を通り過ぎると、蔦の細道の入り口が見えてくる。峠越えの道らしく、足場が岩場で急な上り坂が出迎えてくれるので、しっかり一歩ずつ歩を進めよう。筆者は久しぶりのハイキングだったので少々息が上がってしまい、小休止を挟みながら峠を登った。


急な岩場の上り坂を越えると、勾配が緩やかになり、石の階段や木の根を踏みながら歩く道が続く。途中、みかん畑の隣を歩くという非常に静岡らしい景色を楽しめるので、焦らずゆっくり景色を楽しみながら歩くのがおすすめだ。
蔦の細道が登場する「伊勢物語」は平安時代の天才歌人、在原業平(ありわらのなりひら)をモデルにした人物の人生を綴ったもの。平安時代の歌人がこの急な勾配を歩いて旅をし、その後江戸時代に続くまで文人憧れの道だったと考えると感慨深くなってくる。中世の歴史浪漫に思いを馳せながら歩く時間もまた格別だ。


20分ほど歩くと、宇津谷峠の最高地点に辿り着く。ここには在原業平の歌碑があり、峠越えをした際の和歌が刻まれているので実際に見てみてほしい。ベンチがあり、展望も良いので小休止していくのもおすすめだ。
天気が良ければここから富士山も望める。残念ながら、筆者が訪れた際は富士山の頂上が雲に隠れていたので、また天気のいい日に訪れたい。

峠の最高地点からは下り坂が続き、道の駅「宇津ノ谷峠」のある静岡市側まで続く。地元の人々が手入れをしているので、森の中の道ながら歩きやすく整えられているのがありがたい。ここから道の駅までは10分もかからないので、歴史浪漫の余韻に浸りながら歩いてみてはいかがだろう。