■孤高の村で歴史散歩
路地や通りをぶらぶら歩くだけでも十分に楽しめるが、小さな村は1時間も歩けば隅々まで回れてしまう。歩くだけでは物足りないな、と感じたら、もう一歩踏み込んだ歴史・自然環境を体験できるスポットを訪れてみるのもおすすめだ。
村の中心にはサン・ドナート教会と中世〜ルネサンス期の建築様式の住宅に囲まれた広場がある。サン・ドナート教会は7世紀に起源を持つ古い教会で、その後16世紀に改築された。ファサードはルネサンス期に改築されたものだが、もとはロマネスク様式の建築で、内部にはペルジーノ派のフレスコ画なども残っている。内部に入ると外観よりもその歴史の古さを実感できる。
路地のあちこちを覗きながら歩いていくと、さらに古いエトルリア人の洞窟住居を見学できるスポットもあった。『Antica Civitas/アンティカ・チヴィタス』という小さな博物館では、エトルリア人の洞窟遺跡が見学できるようになっている。この住居は古代エトルリア人の洞窟住居を改装し、1930年代に農民のための宿泊施設として利用していたもので、内部にはオリーヴオイルやワイン造りのためのプレス機、農耕具、古代の陶器の破片などが残された作業部屋、当時の農民の寝室などがあり、規模は極小ながらとても興味深い展示が並んでいる。窓から眺める凝灰岩の渓谷のパノラマも素晴らしく、古の村人たちの暮らしぶりを体感できる。
一方、この村と周囲の渓谷の大自然を満喫できる場所が、村外れにある「Il Giardino del Poeta(詩人の庭園)」 。有機農業を営む農家さんがやっている地元の特産品の販売所がある場所で、私有地のため入場の際には特産のハチミツやオリーヴオイル、ジャムやパスタソースなどを購入するか、あるいは心付け程度の募金をお願いしているという。お土産を物色しつつ中を覗いてみると、美しく手入れされた広い庭の先に、見事な渓谷のパノラマが広がっていた。
ボルセナ湖とテヴェレ渓谷に挟まれた凝灰岩の谷一帯は、古来より侵食と地滑りを繰り返して現在の姿になったが、もともとこのエリアの最も古い地層は海洋起源の粘土質のもので、そのため特に侵食の影響を受けやすかったらしい。その地層の上に溶岩と凝灰岩の層が重なっているため、何世紀もの時の経過で周囲にあった村は徐々に崩壊していったのだが、チヴィタ・ディ・バーニョレージョだけは一枚岩の上にあったお陰で奇跡的に生き残ったのだそうだ。しかしながら、温暖化の影響でイタリアでも集中豪雨などの大規模な自然災害が増えてきている昨今、この先いつまでこの景観を愛でることができるのかは誰にもわからない。そう考えると、こうしてこの場所に立っていること自体が奇跡を体験しているのだと思えてきた。
文・写真/田島麻美