■住民11人の中世時代の村
長い間、俗世界から孤立していたチヴィタ・ディ・バーニョレージョだが、現在は陸地にある隣村のバーニョレージョから延びた一本の橋を渡ってアクセスできるようになっている。
橋の袂にあるチケット売り場で入村料を払い、荒々しい凝灰岩の渓谷の風景を眺めながら高低差がある300mの橋を渡っていく。かつて橋が地震によって崩壊した際には完全に世界から孤立してしまった村だが、1965年に鉄筋の橋が架けられ、その後大規模な改修工事を経て現在の姿になった。急な上りが続く中、時々身を乗り出して橋の両脇の崖下を覗いてみると、その高さにめまいがしそうになる。ようやく橋を渡りきり、崖の坂道を登り切った時は息が上がっていた。
いくつかあった村への入り口も、今では橋から続く一本道の終点にあるサンタ・マリア門のみとなっている。古い中世の門を後に増改築したルネサンス様式のサンタ・マリア門をくぐると、その先には中世〜ルネサンス時代そのままの街並みが広がっていた。よくここで時代物映画の撮影が行われるそうだが、それも納得の不思議な雰囲気が村中に漂っている。
現在も崩壊の危険性は残ったままという村は、生活の場というよりは一種の「別世界体験」ができるテーマパークのような感じがする。一般車両は侵入禁止なので、毎日の生活必需品もこの長くて急な橋を渡って徒歩で運搬しなければならないと考えると、やはり生活の場としては適していないだろう。とはいえ、この村には住民もいる。最近の調査では、11人の村人がここに住んでいるらしい。レストランやホテル、土産物屋なども増えているし、かつて廃村の危機にあった村は、人気観光スポットとして認知されたことによって息を吹き返したといえるだろう。