日本第2位の標高を誇る南アルプス にある北岳(標高3,193m)は、花の百名山に選ばれており、属する白峰三山(しらねさんざん)は大変美しい花畑もあることで人気だ。そのことを雑誌や山の本で知り、アルプスに登り始めたかつての筆者は、17年前の7月下旬、山頂直下の肩の小屋に1泊して、北岳に登った。

 当時素晴らしい眺望と、本で見たとおりの沢山の花畑に大感激。翌年から北岳に咲く高山植物「キタダケソウ」を見るために、登山時期を7月下旬から初旬に変え、3年間北岳に通った。キタダケソウに会えたことにおおいに満足し、加えて紅葉を見るために10月初旬にも登った。しかし、北岳にはそれ以来登らなくなった。

 同行していた南アルプス市役所の職員さんが、北岳の現状を教えてくれた。シカやサルが頂上付近まで登り、植生を荒したり雷鳥を食べたりしていると。

 3年間通って分かったのは、大樺沢(おおかんばさわ)には動物のもつような匂いがたちこめており、石の上にサルのフンが沢山あって、斜面にはシカが歩いたと思われる多数の足跡があったことだった。

 これから北岳はどうなっていくのだろうか。残念ながら良くない結果の前兆のように感じ、見届けるのが怖くなったのだ。

 しかし、その後も北岳が気になっていた。SNSで北岳の様子を見ると、素晴らしい花畑だということだった。

 またいこう。北岳へ。

 ルートは17歳老いた筆者自身の年齢を勘案し、広河原から山頂付近まで一気に行かず、白根御池(しらねおいけ)小屋で1泊、山頂を通過して北岳山荘で1泊、翌日下山する2泊3日の行程に決めた。

北岳開山祭会場から北岳を眺める

■登山道「大樺沢ルート」通行禁止に

 当時筆者は、野呂川へ注ぎ入れる大樺沢を遡上する「大樺沢ルート」を登っていたが、台風などの影響で地形変化が進み、2023年から通行禁止になった。そのため白根御池小屋へ登るルートを利用することにした。

 大樺沢ルートがコンスタントに標高を上げるのに対し、白根御池小屋ルートはいきなりの急登がきつい。沢から吹く風の涼しさを感じながら、白根御池小屋まで登った。

急登途中で地蔵岳を眺める

■早い雪解け

17年前の7月下旬の二俣付近。支流上部まで雪が残っていた
2024年7月下旬の二俣付近。残雪があるのみだった

 以前は、大樺沢の雪渓を歩いて登るのが涼しかった。だが、今年見た大樺沢は二俣付近にわずかな雪しか残ってなく、雪渓を歩くことはできなかった。また、当時肩の小屋前のテント場や、間ノ岳(あいのだけ)にも雪渓が残っていたが、こちらにも雪がなかった。

17年前の肩の小屋前テント場にはまだ雪があった

■気温がこんなにも上昇していたとは

 北岳山荘に到着すると、ボードに最低気温が11℃と記載してあり、こんなに気温が高いのかと違和感を感じた。帰宅後「北岳山荘だより」というサイトで遡ると、17年前ではないが2009年7月21日(およそ15年前)の気温の記録がある。同サイトでの今年の8月6日と比べてみた。

15年前との気温の比較

 積雪や気温は年によっても差があるので、これはあくまでも一例に過ぎないのだが、実際に歩いた経験から、17年前との差を大きく感じずにはいられない。

 15年の間に最低気温で約4℃、最高気温で約6℃の差があることを知り、雪融けの早さに納得できた。

■すでに散っていた「チョウノスケソウ」

17年前の7月下旬に咲いていたチョウノスケソウ

 山頂直下に咲くことで有名な高山植物で、白くかわいらしい「チョウノスケソウ」や、北岳では珍しくピンクの「ミヤマクワガタソウ」に今回は出会えなかった。よく見るとチョウノスケソウは散った跡を見つけた。

 ミヤマクワガタソウに関しては全く見つけることができなかったので、咲き終わってしまったのかは分からなかった。

17年前の7月下旬に咲いていた「ミヤマクワガタソウ」

 「南アルプスNET」HPで調べると、チョウノスケソウもミヤマクワガタソウも7月に咲く花だった。逆に今回見ることができた「タカネコウリンカ」や、岩場で可憐に咲く薄ピンクの「タカネビランジ」は8月と記載されていたが、今回訪れた7月下旬で満開だった。

【南アルプスNET】http://www.minamialps-net.jp/kouzan

2024年夏「八本歯のコル」付近の崖地に咲いていた「タカネビランジ」