富士山には、山頂を目指して歩く登山道以外にも一般の人々が歩けるルートが多数整備されている。山梨側の登山口、富士スバルライン5合目付近に整備された御庭(おにわ)遊歩道と御中道(おちゅうどう)遊歩道もそれにあたる。

 標高2,200〜2,400m付近を緩やかにアップダウンする散策路となっており、溶岩石の降り積もった砂礫の道、森林限界に自生する高山植物、そして見上げるようにそびえ立つ富士山山頂や周辺山域への眺望を気軽に楽しむことができる。

 富士山の開山は7月だが、富士スバルラインは2024年は4月26日に全線開通しているので、開山前の足慣らしや様子見に訪れてみてほしい。

■御庭遊歩道の魅力

植生も多彩な御庭遊歩道

 御庭遊歩道は、富士スバルライン4合目と5合目の間に位置し、高山植物が多数生い茂る中を散策する遊歩道だ。カラマツやダケカンバ、シラビソといった高山植物がメインだが、7月下旬〜8月上旬にかけてはハクサンシャクナゲ、コケモモなどが花を咲かせて華やかな雰囲気を醸し出す。

 また、野鳥も数多く生息しており、ウソ、ルリビタキ、メボソムシクイといった小鳥達のさえずりも耳に心地よく、心穏やかな一時を提供してくれることだろう。

 遊歩道の奥には展望台があり、天候に恵まれれば緑豊かな朝霧高原、元旦のダイヤモンド富士で有名な竜ヶ岳や毛無山、長者ヶ岳などのピークを持つ天子山地、田貫湖や本栖湖等を眺望することができる。もちろん振り返れば、富士山山頂への眺めもバッチリだ。

 なお、石畳などが設置されて歩きやすくなってはいるが、スコリアと呼ばれる溶岩石が敷き詰められた区間や相応のアップダウンの中を歩く必要がある。ヒールや革靴は避けて、トレッキングシューズやソールがしっかりしたスニーカーで訪れて欲しい。

■御中道遊歩道の魅力

アップダウンは少ない御中道遊歩道

 御中道遊歩道は、富士スバルライン5合目から御庭まで続く眺望にたいへん優れた遊歩道だ。森林限界ギリギリの標高の中、カラマツやダケカンバの樹林帯とスコリアと呼ばれる溶岩石の敷き詰められた砂礫の道を交互に進んでいくことになる。

 樹林帯には御庭遊歩道と同じく、ハクサンシャクナゲやコケモモの群生地が点在しており、開花の時期にはそれらの花々を楽しむこともできるだろう。

 展望は北方面に大きく開けており、広大な青木ヶ原樹海の先に、富士五湖である本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、それらを覆い包むように立ち並ぶ天子山地、御坂山地の山々を楽しむことができる。天候に恵まれれば、八ヶ岳連峰や南アルプスの山々まで遠望することも可能だ。

 そして、御庭遊歩道ほどのアップダウンはないが、本道も溶岩石の上を通過する道なため、ヒールや革靴は避けて歩きやすい履物で訪れて欲しい。

 なお、御中道とは富士山5合目付近を一周する登山道を指す。この道を一周する御中道めぐりは、修験道開祖といわれる役小角(えんのおづの)が始めたとされ、富士山頂に三度以上登頂を果たさなければ踏み入ることが許されない修験の道だったといわれている。

 現在では崩壊が進み、今回紹介している区間以外は通行禁止となり、復旧は難しいといわれている。過去大規模な落石事故のあった吉田大沢、現在も崩壊を続けている大沢崩れといった数々の難所がある。