紅葉が美しいのは観光地に限ったことではない。全国的に有名ではないにしても、地元で愛される山も時期が来れば美しい秋の装いに変わる。筆者にとっては、岡山県・那岐山(なぎさん)の控えめな紅葉が、今まで見てきた中でも特に鮮明な思い出になっている。毎年訪れたくなるほど、那岐山で見た紅葉の景色は特別だった。
■岡山県と鳥取県の境に位置する秀峰、那岐山(なぎさん)
那岐山は岡山県の奈義町(なぎちょう)と鳥取県の智頭町(ちずちょう)にまたがる標高1,255mの山で、国定公園にも指定されている中国山地の秀峰。岡山県で2番目に高い山で、頂上からの眺めは何も遮るものがない360度の大パノラマが圧巻である。
そんな那岐山は四季折々、さまざまな景色を魅せてくれるので季節を問わず人気の山だ。特に冬の青空は美しく、「那岐ブルー」と呼ばれるほど有名である。
その名前の由来は日本神話のイザナギ、イザナミがこの峰に君臨した伝説に由来するとも言われている。
■那岐山の登山ルート
那岐山の登山ルートはいくつか存在し、それぞれ見どころがあるのだが、筆者が通ったのは奈義町側から出発する周回コース。蛇淵滝(じゃぶちのたき)コースから山頂を目指し、大神岩(おおかみいわ)コースで下山する。大きな危険箇所はなく、積雪がなければ初心者でも歩きやすいコースだ。
登山口には無料駐車場があるほか、バス停もあるので公共交通機関でもアクセスできる。今回歩いた登山コースに要する所要時間は以下の通り。
那岐山登山口(標高約600m)→ 1時間 → 黒滝(標高約880m)→ 1時間20分 → 山頂(1,255m)→ 1時間30分→ 那岐山登山口
■秋の景色を求めて
訪れたのは11月中旬、登山口は標高600mほどあるため、登りはじめの瞬間から赤や黄色に色づいた秋の山を感じることができた。
蛇淵滝コースは沢沿いを歩くコースなので、水のせせらぎを感じながら登ることができるのもいいポイントだ。
最初の1時間ほどはゴロゴロとした大きな石をよじ登るような格好で登るため、傾斜はきつめ。しかし危険箇所などはなく、自然のままの登山道歩きが楽しめる。
平日の那岐山は登山者も少なくひっそりとしていた。リスやそのほかの生き物たちも冬越の準備に入ったのか、落ちているどんぐりも少なく気配が感じられない。そのまま歩き進めると、樹林帯を抜け青空が広がった。
山頂付近になると笹原が見事な稜線に出る。その稜線はとても美しく、四国の剣山にも似た雰囲気を感じる。秋の空と乾いた印象を受ける木々たちがどことなく寂しい情景を作り出していた。稜線まで出ると、山頂まではあと1kmほどだ。
ようやく山頂に到着すると、ほかの登山コースから登ってきたであろう登山者がたくさん集まっていた。