富士山の北西麓「青木ヶ原樹海」を歩いて溶岩洞穴をめぐる。貴重な自然の魅力を感じることができるエリアに整備された遊歩道に、山梨県富士山科学研究所・内山高さんの案内で訪れた。
一帯は「富士山原始林及び青木ヶ原樹海」として、国の天然記念物に指定されている。これから紹介する「富岳風穴」「鳴沢氷穴」「竜宮洞穴」もそれぞれ指定を受けている。地質学的に貴重であることはもちろん、内部には祭祀や養蚕の跡などもあり、噴火と人の歴史が作り出した“溶岩遺産”ともいえる場所だ。
畏敬の念を抱きつつ入り口付近に立つと、ワクワクする探検気分が湧き上がり、ヒヤーッと上がってくる冷気に思わず声がでてしまう、自然散策やアウトドア好きにはもってこいのスポットだ。
■約200mの横穴!「富岳風穴」
総延長201m、天井までは最も高いところで8.7mにもなる洞穴。溶岩棚や縄状溶岩、産業用の蚕や樹木の種子、冷蔵用に使われていた時代を再現した氷柱など見どころが多い。頭上注意の標識や往復の動線を隔てる手すりも整備されていて、ゆっくり見て歩くことができる。ただし足元は濡れているので注意が必要だ。
流れ出た溶岩流の上部が外気に触れて先に固まり、下部の溶岩はそのまま流れ続けたために隙間ができ、空洞となったという。溶岩棚や縄状溶岩はその過程を知ることができる天然の標本ということだ。
■青木ヶ原樹海を通り抜けて「鳴沢氷穴」へ
「東海自然歩道」は東京都八王子市高尾町から大阪府箕面市を結ぶ1都2府8県、全長1600km以上に及ぶ長距離自然歩道だ。途中の約9㎞が青木ヶ原樹海を通っている。次の鳴沢氷穴へはそのルートの一部を30分ほど歩いて向かう。
青木ヶ原樹海は今から約1150年前、864年(貞観6年)に起きた貞観噴火によって流れ出た溶岩流の上に再生・形成された森林。富士山の北西部、西湖の南部に位置し、面積は約30㎢、山手線内側の半分程度の広さだ。
森林が作られる過程では多くの光を必要とする成長の早い陽樹がまず育ち、やがて少ない光でも生育できる陰樹へと移り変わっていくとされている。青木ヶ原樹海はその過程の途中、混交林の状態。木々はほとんど土壌がない溶岩の上を這うように根を横へ伸ばし、幹が細いのも特徴だ。
溶岩台地の作り出す自然の造形には「溶岩樹形」や溶岩流の端にできる「末端崖」など、学術的に重要なものが多いが、その上にある森もまた、豊富な木々の種類によって、野生動物や草花を育む貴重な環境となっているのだ。
幅2~3mほどのよく整備された遊歩道が続く。足元は溶岩なのでさすがにフラットというわけにはいかないので、履きなれた靴を履き、張り出した木の根や雨のあとの滑りやすい岩には気をつけて歩きたい。この日はインバウンドやファミリーでの観光客も多く通り抜けをしていたし、校外学習などで利用されることも多いという。
なにかと近寄りがたい印象のある「樹海」だが、苔に覆われた複雑な溶岩の林床の上に、針葉樹と広葉樹が根をめぐらせて混生する様子は神秘的。独特な森の景観は一見の価値ありだ。
■こちらは竪穴! 地下21mの「鳴沢氷穴」
流れ出た溶岩が徐々に冷めて収縮する際、内部のガスが噴出して形成された鳴沢氷穴。竪穴で環状型なので1周することができる。巨木の跡と考えられる高さ91㎝の横道をかがんだ姿勢のまま進んだり、氷の貯蔵庫が再現されていたり、さらに底の見えない真っ暗闇の「地獄穴」を覗きこむ(でも何も見えない!)ことができたりと、ワイルドに楽しむことができる。こちらも富岳風穴と同様に、凹凸のある溶岩に体をぶつけたり、濡れた階段で滑ってケガをしないよう十分に注意したい。
ところで「風穴」「氷穴」の呼び名の違いは何だろうか。内山高さんによれば特に違いはない、とのこと。実際にどちらも富士山の雪どけ水が冷やされてできた氷柱や氷が見られるのだ。
富岳洞穴と鳴沢氷穴は通年営業だが期間によって時間が異なる。料金やモバイルチケット、レストハウスの情報などと合わせてHPで確認したい。
●天然記念物 富岳風穴・鳴沢氷穴 https://www.mtfuji-cave.com/
9月3日(日)には参加費無料のウォーキングイベントが開催予定だ。定期的にガイド付きのツアーも開催されているので、よりじっくり知りたい人は参加してみるのもいいだろう。
●健やか樹海ウォーク https://www.fujikyu-travel.co.jp/event/free/jukaiwalk.html
・主催:いのちをつなぐ青木ヶ原ネットワーク会議/富士河口湖町/山梨県
・協力:富士河口湖ウォーキング協会/日本健康運動指導士会山梨支部