コロナ禍からブームとなった移住が、今ムーブメントになりつつある。Job総研が出した『2023年 地方移住の意識調査』によると、地方移住に「興味あり」と回答した社会人男女は59.8%と高い割合を示した。コロナ禍で働く場所や働き方の多様化が進み、各地方が進める移住促進施策を後押しする結果となった。

●参考記事:Job総研による『2023年 地方移住の意識調査』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000013597.html

 一方で、大自然に囲まれたスローライフを夢見て移住したとしても理想の暮らしができるとは限らない。「移住 後悔」とネットで検索するとネガティブな実体験エピソードが山ほど出てくる。

 しかし、移住を前向きに考えている人にはもちろん、コロナ禍をきっかけに田舎暮らしに興味をもち始めた人にこそ、「お試し移住」はおすすめだ。

 この記事では、長野県で複数回「お試し移住」を体験してわかった、筆者のおすすめポイントや情報を紹介する。

信濃町のお試し移住施設の周りの景色(撮影:佐野葉月)

■「お試し移住」のきっかけは、唐突な一言から

 「今年の夏は、長野県の信濃町でお試し移住するよ」。突然の筆者の打診に「移住は絶対しないけど、夏休みに行くだけなら」という条件付きで、夫も渋々承認してくれた。

 旅好きな筆者はさまざまな土地を訪れる中、長野県に特別な思い入れがあった。特に信濃町が位置する県北部は水と野菜がおいしく、有数の豪雪地帯でもあり、子どもの頃からスキーによく訪れていた。

 住み慣れた大阪での生活は便利で快適だが、自然の近くで暮らしたいという思いを捨てきれず、すぐにできる「お試し移住」を体験することにした。

 夫は願わくば、大阪から一生出たくないタイプ。お試し移住施設は、旅行や帰省目的で使用することを禁じており、本来なら移住について二人で合意形成をして申し込むべきなのだが、夫の性格をよく知る筆者はまず体験することを優先した。

 2021年8月中旬、いざ信濃町へ。大阪からは車でおよそ6時間の長旅。高速を降りると、目の前に美しい緑が広がり、2,000m級の山々に囲まれた信濃町は町全体に生命の息吹が感じられた。

■まさかのタダ! 驚きのお試し移住施設とは

 信濃町のお試し移住施設はとにかくきれいだ。間取りは広々とした1LDKで日当たりもよい。キッチンやお風呂などの水回りは新しく、調理道具や掃除道具など生活に必要なものは一通り揃っている。

 エアコンは付いていないものの、標高が高く湿度も低いので、空気がカラッとして窓を開けると心地よい風が入ってくる。朝晩は半袖を着ていると寒いくらいの気候だ。

 夜はとても静かで、虫の声と風の音しか聞こえない。同じ夜でも、暗さの質や静けさが大阪とは全く違う。外に出て空を見上げれば、満天の星が輝いていた。

 驚くべきはその利用料。信濃町の場合、6泊まではなんと無料だ。7泊目から1650円/泊(家族の人数に関わらず同額)がかかるが、安価な料金設定のおかげで、お試し移住のハードルも低くなる。

 希望すれば、先輩移住者との交流もできる。仕事や家の探し方、子育て環境、移住者から見た地域の様子など、実体験を通した移住のメリット・デメリットを聞けるのは貴重だ。

滞在した信濃町のお試し移住施設(撮影:佐野葉月)
お試し移住施設の室内(画像提供:長野県信濃町役場)