北海道を代表する山域、大雪山系と十勝連峰。この2つの山域の主稜線は登山道でつながっている。大雪・十勝全山縦走と呼ばれる代表的なルートは旭岳から富良野岳までの約70km。途中のエスケープルートが限られ、テント泊が必要となる上級者向けの縦走ルートで通常の登山なら4泊〜5泊程度かけるのだが、この長大なルートにトレランスタイルで1DAY走破に挑戦した。

■大雪山系・十勝連峰の概要と1DAYで駆け抜けるために必要な条件とは

長いトレイルを駆け抜ける。日の出、日没、夜間行動が必要不可欠だ

 大雪・十勝の全山縦走を1DAYで抜ける、というのはトレランといえど通常の山行ではない。十分な技術と体力、山の中での様々な判断能力が必要となることは言うまでもない。単純に距離だけ見れば、もっと長いトレランのレースはたくさんある。しかし、林道などで距離を稼ぐトレランのレースなどと、単純に比較はできない。トレランでの走力以上に、山での行動スキルのほうが重要になるルートだ。

スタートは旭岳温泉の登山口。ロープウェイを使わないので、登り応え十分

 大雪山と十勝連峰は南北に連なった山域。周回ルートではないし、全山縦走に南北どちらからスタートするかの決まりはない。一般登山縦走ではロープウェイを使う人が多いので北の大雪からスタートして南下する事が多い。一方、トレランスタイルの場合ロープウェイ利用を念頭に置かない場合が多いので、少しだけ標高的に有利な南側の十勝岳温泉からスタートする場合が多い(多いといってチャレンジする人はごく少数だが)。

 この全山縦走は夏・冬含め様々なスタイルで何度か行っているが、数年前に十勝岳温泉側からの全山縦走トレランを行ったので、今回は北側の大雪山からのルートでチャレンジしてみた。

■北海道最高峰の旭岳 ロープウェイを使わずに1合目から登る

標高差1,200mを登り切った、北海道最高峰の旭岳! 真っ暗で展望ナシ!

 スタートは旭岳温泉の登山口、旭岳ビジターセンター。日付が変わった午前0時にゆっくりと動き出す。標高差1,200m、山頂までの約6kmが、まずはウォーミングアップだ。天候は晴れ。山の上部は少々風があったが条件は概ね良好だ。

 この大雪・十勝全山縦走において、天候は重要なポイントになる。必要最低限の物は持っているとはいえ、一般登山ほどの装備は持っていない。悪天候の中をジワジワと進むのではなく、条件の良いタイミングで一気に進む、というのがセオリーだ。そのため、今回のチャレンジもギリギリまで天候を見極め、決行の判断をしたのは前日の朝だった。2、3日は天気が崩れないという、絶対の信頼があれば山でのリスクをかなり軽減することができる。

 1時56分、ほぼ想定通りのペースで旭岳山頂に到着。ここからしばらく、大雪山の高原トレイルを行く。

夜間行動においてヘッドライトは命綱。足下を照らす明るさだけでなく、照射時間の長さも重要だ

 旭岳を後にして、アップダウンの少ない表大雪のトレイルを進む。北海岳を越えて白雲避難小屋へは3時45分に到着。まだ周囲は真っ暗だが、小屋泊まりで早出の登山者たちは準備を始めていた。ここまでは4時間ほどを予定していたので、少々ペースが速い。

 秋のこの時期、まだ暗く、日の出はもう少し先だ。ヘッドライトで照らされているとはいえ、夜間行動は慎重に進みたい。

まだ暗い中、高根ヶ原を進む。特徴的な形をした忠別岳がうっすらと見える

 白雲小屋から先の高根ヶ原は標高1,800mほどに広がる、緩やかで、尾根というより台地のような地形。花の時期であればどこまでも続く高山植物が咲き乱れる、夢のような場所だ。ただし、距離は長い。歩いているといつまでも先に進んでいる気がしないほど、延々と続く。しかし、トレランであれば快調に進むことができ、楽しい場所だ。この高根ヶ原で夜明けを迎え、明るくなってきた。

高根ヶ原の後半を快調に進む。はるか遠くにはトムラウシ山の山頂部が見えている

 高根ヶ原は緩やかとはいえ、基本的に忠別岳に向って登りが続く。ここから振り返って眺める旭岳や白雲岳と高根ヶ原の景色は、大雪山のなかでも特に好きな景色だ。登山道も歩きやすく、最高の高原散歩を楽しめる場所。