「いつか二人で旅をしたいね」と話した夢が叶う日がやってきた。こう見えて、ワールドカップ総合女王とオリンピック金メダリスト。かつて世界をひざまづかせたモーグル女子の好敵手同士がおおらかに雪山を歩き、ギューンと滑って、大いに笑った数日間。そんな東北・青森の旅を、上村愛子が自ら振り返ります。
(後編)

八甲田山荘の焼き立てパンを頬張る。何やら真剣だ(笑)

文=上村愛子、写真=板倉淳夫、協力=星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル、八甲田ロープウェー、八甲田山ガイドクラブ

■ツアーを最大限に楽しめるのはガイドの皆さんのおかげ

 次の斜面に向かうためにスキーで斜面を登る準備をする。ソール部分にシールと呼ばれる滑り止めのシートを貼って、ブーツとビンディングをウォークモードにセットするのだが、これも全て多英さんにとっては初めての作業だった。

 多英さんは一つひとつの手順をガイドの相馬浩義さんから丁寧に教わりながら進めていく。私もそうだったけれど、初めての時は教えてもらうと言いながら、もちろん作業のほとんどは相馬さん頼みである。

 準備を整え終えると、スキーを履いて斜面を登り始めた。
「へぇ〜、スキーで登れるなんて不思議!  楽しいねぇ」

 と多英さん。自分も何年か前に同じ言葉を発した記憶がある。

ツアービンディングの洗礼を受けて爆笑の多英さん。これも「初めて」の良い思い出

 カカトを開放したウォークモードになっていることをすっかり忘れて、ときどき前のめりに転ぶ多英さん。初めての挑戦と旅行マジックで多英さんも周りも笑い声が絶えない。

 そういえば、相馬さんと多英さんの会話は、なんだかほっこりする雰囲気だった。初対面のはずなのに、北国出身同士のおおらかな二人らしさなのかもしれない。

 私が八甲田山でバックカントリースキーに参加するのは今回で3度目になるけれど、ここではいつも八甲田山ガイドクラブの皆さんにお世話になっている。

 設立者のひとりであり、ガイド隊長の相馬さんを始めとする八甲田山ガイドクラブの皆さんは、ここを滑りたくて訪れる多くの人を笑顔で迎えてくれる素敵な人達だ。

 常に変化する降雪状況や雪面状況を踏まえ、個々のレベルを見極めながら、その日ベストのツアーコースを選別してみんなが楽しめるように山へと連れて行ってくれる。天気によっては視界が効かない日もあるけれど、どんな時にもツアーを最大限に楽しめるのは、最善の準備をしてくれるガイドの皆さんのおかげだ。「多英さん、大丈夫!  楽しいよ!」と私が言い切ることができたのは、今回も相馬さんがガイドをしてくれるからだった。

樹氷を縫うように登る。早くもツアースキーを使いこなしている多英さん

 登りは会話ができるくらいのペースで進み、時々休憩を入れながらそこから見える景色を堪能する。八甲田山の名物である様々な形をした樹氷「スノーモンスター」の間を迷路のように歩きながら、「怪獣みたい!」と趣味のカメラで写真を撮るのも楽しい。そして滑走斜面に出るたびに、目の前のノートラックの雪面に感激の声が上がる。

この日一番の大斜面でファーストトラックを描く多英さん。快晴無風、雪も良く、最高に気持ちのいい1本だった