■夏らしさ全開のお手軽ルート!  石空川渓谷とは?

 鳳凰三山の地蔵岳を水源に、南アルプスらしい花崗岩の美しい渓谷がある。なんと読むのか一瞬考えるような名前の「石空川渓谷」である。

 読み方の正解は「いしうとろがわけいこく」。名前からして、気持ち良さそうな渓谷だと想像がつくのは僕だけではないはずだ。その名の通り、真っ白な花崗岩の渓谷には、エメラルドグリーンの淵や蒼い流れがきらきらと太陽の光を反射させている。渓谷を包むブナの森も木漏れ日が気持ち良い。

 そんな渓谷沿いには歩きやすい遊歩道が整備されており、小滝をいくつも巡りながら、最終的には日本の滝百選に選ばれている北精進ヶ滝の展望台に出る。片道40分ほどの滝巡りの道は短いと思うかもしれないが、豪快な水飛沫をあげる滝を間近に見ながら、全身マイナスイオンに包まれる気持ちよさと、いろいろな水の表情を楽しむにはうってつけなコースだと思う。

水しぶきのシャワーが気持ち良い石空川渓谷遊歩道を巡る

■朝寝坊と素敵な出会いの話

真夏にはセミの大合唱が辺りを包み込む。感じの良い森の中を登山道が延びていく

 僕が初めて訪れたのは、意外にもつい最近のこと。南アルプスに登山に出ようと意気込んでいたものの、見事に寝坊してしまい、短い時間でも歩けるこのコースに向かってみたのだ。

 山梨県北杜市にある精進ヶ滝林道を車で走ること30分ほど。平日の遊歩道入口駐車場は誰もいなくて、半信半疑な気持ちで歩き始めた。

 入口の吊橋から川を見下ろすと、真っ白な河原に気持ちの良い流れが見えた瞬間、期待なんてしていなかった気持ちが高揚し始め、足取りが早くなっていくのがおかしかった。吊橋の先の森が、また素晴らしいのだ。10数年も鳳凰三山には通っているのに、なぜ一度も来てなかったのかと思うほど……。ブナの大木が、光をほどよく取り込む間隔で佇む森の中を歩くだけでも十分に気持ちが良い。真夏にはセミの鳴き声の中に飛び込むような世界が広がるのだろう。

透明度が高く、ひんやりとした淵が涼しげ

 ほどなく、遊歩道は渓谷沿いに出る。真っ平らな流れの先に、一ノ滝が見える。ここからは、階段と吊橋の連続する遊歩道に入り、豪快な滝の流れを間近に見ながらの散策が始まる。遊歩道とはいえ、靴をスニーカーではなく、アプローチシューズにしておいてよかったなと思うくらい、道中には所々注意したい場所がある。よく渓谷沿いの遊歩道で事故が起きるのは、よく整備されていて気軽に歩ける反面、滑落や転倒のリスクもあるからだと思う。リスクを頭に入れて散策を満喫したい。