◼️️“声”と向き合ったプレオープンの1年
2025年5月、1年にもわたるプレオープンが始まった。場所を整備しながら、体験者の声と、四季を通した土地の声とも向き合った。
春は実戦。蒸気、薪、ハーブ、導線。細かな調整を繰り返した。
夏は開放。冷たい水と、森の風の心地よさ。雨季の大変さも体験した。
秋は深化。体験者の反応を見ながら、体験の質を磨いていった。
冬は静謐。1日1組の鴨鍋プランなど、冬ならではの本質を探った。
そして1年を通して、円原川の凄さも改めて感じた。
新緑の時期の美しさ、増水後のクリアブルーの清冽さ、夏の朝の神秘の光芒、紅葉の輝き、水墨画のような雪の静けさ。水温は真夏で14℃、真冬でも11℃という脅威的な安定感。そしてミネラル豊富な中硬水による、川水風呂の心地よさを味わった。
体験者の満足した顔と、「こんな場所を作ってくれてありがとう」の言葉に、何度も目頭を熱くした。
この1年を通じて、この場所の可能性は確信に変わっていった。
◼️️THE WATERSが目指すもの
この1年のプレオープンを通して、僕の中でひとつの考えがはっきりしてきた。
本質的なサウナとはなにか。それはサウナそのものを目的にした行為ではなく、リトリート(非日常の自然の中で心身の回復を図る豊かな時間)という体験の中にこそ潜んでいるものなのではないか。サウナは、そのための手段のひとつにすぎない。
蒸気に包まれ、川で身体を締め、自然に溶け込み、焚き火の前でほどける。すると、人が動物として本来持っている感覚が少しずつ戻ってくる。デジタル情報に囲まれた現代において、その「身体性」は本質体験そのものだ。AIがどれだけ進化しても、これは決して生成できない。
THE WATERSは便利な場所ではない。むしろ、少し不便なくらいがちょうどいい。安心・安全・快適が行き過ぎると、不思議と人間は弱っていく。
人は余白があるとき、初めて自分自身と向き合える。スマートフォンを手にして以来、人類はその余白を失ってしまった。だからこそ、この円原川のほとりで過ごす「何もしないリトリート時間」が必要なのだと思う。
ただ、そこに居る。
ただ、呼吸をする。
ただ、自然に溶ける。
そんなシンプルな時間の中で、人は少しずつ自分の中心に戻っていく。
THE WATERSが目指しているのは、そんな場所だ。
◼️物語は続く
2026年3月14日。THE WATERSは本オープンを迎えた。しかしこれはゴールではない。むしろここからが本当のスタートだ。
現在、クラウドファンディングに挑戦中の、屋根付き第二テラスの整備。これが完成すれば、雨・食・香り・夜というより立体的なリトリート体験へと深化するだろう。
さらに、川と山の保全研究。環境土木や植樹による土壌改善モデルづくり。これらを進めれば、行政や企業のCSRとも連携した流域共創拠点の可能性も見えてくる。
そして、以前の土地を失って頓挫していた地域の人や事業者と連携した地域丸ごと宿(アルベルゴ・ディフーゾ)の構想も進めていきたい。限界集落の持続可能性に挑戦するためだ。
■「人がととのえば、地域も自然もととのう」
この理念が実現したとき、「真」「深」「新」「心」が交錯する「シン・サウナ村」は、本当の完成を迎えるのだと思う。
絶望から始まったこの物語は、いま、第二章へと進もうとしている。荒野だった場所に人が集まり、川のほとりで笑い声が響く。
ナタ1本を握りしめたあの日に思い描いた景色が、いま少しずつ現実になってきている。
THE WATERSの物語は、まだ始まったばかりなのだ。