■歴史と信仰が息づく霊峰・身延山
●歴史ある門前町からスタート:門前仲町駐車場〜久遠寺本堂
門前仲町駐車場に車を停めると、すぐに歴史情緒あふれる門前町が広がる。土産物店や精進料理の店が軒を連ね、観光気分が高まる中、舗装された坂道を上がっていくと久遠寺本堂を目指す参道が現れる。
参道の両脇には、老舗の茶屋や旅館が点在し、道中には香ばしい焼きたての身延まんじゅうの香りが漂ってくる。こうした空気感が、心を和ませてくれる。特に冬場は観光客がやや少ない時期なので、静けさの中に身延の風情をより感じながら歩きたい。
途中には日蓮聖人の教えにまつわる案内板や、小さな石仏などもあり、歴史を感じながら歩を進めることができる。やがて現れるのが、身延山最大の難所ともいえる「菩提梯(ぼだいてい)」である。
●急勾配の修行道:菩提梯〜久遠寺本堂
菩提梯は、久遠寺本堂へと続く287段の急な石段である。真っ直ぐに延びる石段は、精神の修行を象徴するような景色であり、歩を進めるごとに背筋が自然と伸びてくる。
冬の朝、冷たい空気の中を登るこの時間は、身も心も引き締まる特別な体験である。足元に注意しながら一段一段を踏みしめると、心なしか日常の喧騒が遠のいていくような感覚になる。登る途中、後ろを振り返ると門前町が眼下に広がり、晴れた日には遠くの山並みまで一望できる。訪れる人の中には、石段の途中で立ち止まり、深呼吸をしている姿も多い。
石段を登り切った先には、朱塗りの柱と黒漆の屋根が印象的な久遠寺本堂が現れる。荘厳な雰囲気の中、初詣に訪れる人々の姿が印象的であり、まさに“信仰の山”と呼ぶにふさわしい。
●空中散歩で山頂へ:本堂〜身延山ロープウェイ〜山頂
参拝を終えたら、久遠寺本堂から徒歩5分ほどの場所にあるロープウェイ乗り場へ向かう。身延山ロープウェイは片道約7分間で、標高1,153mの山頂駅に到着する。
このロープウェイは高低差763mを誇り、関東随一のスケールである。車窓からは富士川や甲府盆地、天候が良ければ富士山まで一望できる。特に冬は空気が澄んでおり、見通しが格別である。
ゴンドラの中では解説アナウンスが流れ、周囲の山々や日蓮聖人にまつわるエピソードが紹介される。景色だけでなく、歴史的背景も学ぶことができる貴重な時間だ。
奥の院駅のすぐ近くには、久遠寺の奥之院である「思親閣(ししんかく)」がある。ここは日蓮聖人が故郷に残した両親を偲び、日々祈りを捧げた場所とされている。
雪に覆われた境内は静寂に包まれ、精神的な安らぎを感じさせる空間である。
思親閣から更に進んだ先に、展望デッキや望遠鏡が備えられた山頂がある。山頂からは南アルプスや八ヶ岳連峰を望むことができ、その壮大な眺めは登山者の心に深く刻まれる。
●絶景を背に帰路へ:同じコースで下山
山頂を堪能した後は、再びロープウェイで下山する。下りの車窓からはまた違った視点で景色を楽しめ、空を飛んでいるかのような感覚が味わえる。
久遠寺本堂に戻った後は、門前町の石段を下って駐車場へと向かう。登りの際に見逃した店を覗いたり、土産を選んだりしながらのんびりと散策していこう。途中、茶屋に立ち寄って、冷えた体を温めるのもいい。店の人との会話を楽しむのも旅の醍醐味だ。
このコースは、急峻な登山道を避けつつも、気軽に修験者の雰囲気を味わえるルートである。冬でも無理なく楽しめるため、ファミリーやシニア層にも人気が高い。
●本格登山派へ:登山道で山頂に向かう場合
久遠寺本堂から山頂までは登山道を使って登ることもできる。ルートは登り2時間半、下り2時間程度を要する。急登や樹林帯が続くため、特に冬場は積雪や凍結に注意が必要である。
本格的な登山を楽しみたい人や、信仰登山を体験したい人には適しているが、十分な装備と体力が求められる。
●下山後は名物・身延まんじゅうと温泉リラックス
奥之院門前町といえば外せないのが名物の「身延まんじゅう」だ。ほかほかの薄皮まんじゅうの中に、甘さ控えめのこしあんがぎっしり詰まっていて、登山や参拝後の体にじんわり染み渡る。お店ごとに特徴があり、数軒を食べ歩くのも楽しい。
出来たてをその場で食べるのもよし、お土産にするのもおすすめ。人気店には行列ができることもある。
身延山から車で30分ほどの場所にある「下部温泉(しもべおんせん)」は、戦国武将・武田信玄の隠し湯としても知られる名湯。泉質はアルカリ性単純硫黄泉で、従来、隠し湯と呼ばれる約30℃の源泉と、51℃にもなる高温の源泉の2種類が楽しめる。
冬の身延山は、信仰・歴史・絶景・癒しがすべて詰まった特別な山旅。ロープウェイを使えば、体力に自信がなくても楽しめる登山ルートになり、家族連れや初心者にも最適だ。久遠寺で静かな祈りの時間を過ごし、空中散歩のようなロープウェイで絶景を堪能してほしい。