■お墓の前でピクニック? 沖縄の独特な先祖供養
後藤さんがユタから告げられた、「墓の中を見たらダメな干支」そして「星の巡り」とはなんだったのか。後者については残念ながら有力な情報や史料を見つけられなかったものの、干支については沖縄の風習と深い関係がある。
沖縄では古くから、墓を建てる際の日取りやタイミングが重んじられてきた。神道に近い宗教観が今も息づくこの地では、「死」を穢れ(けがれ)とする意識が、本州よりも根強いといわれている。そのため、墓をめぐる行事では縁起の悪い日を避ける傾向にあり、地域によっては家族や親族の干支と重ならない日を選ぶこともあるのだ。
つまり、「墓の中を見てはいけない干支」とは単なる迷信ではなく、土地に根付いた“死者との付き合い方”の一部といえる。また、後藤さんは沖縄独自の墓前祭祀についても語ってくれた。
「沖縄では、シーミー(清明祭)と呼ばれる墓前祭祀があります。シーミーは4月から5月のゴールデンウィークくらいまで行われていて、週末になると親族が集まり、お墓の前でピクニックをするんです」
お墓の前でピクニックとは、本土出身者にはなかなか想像できない光景だ。シーミーは18世紀に中国大陸から伝来した墓前祖先祭祀。地域によっては行わない場所もあるものの、沖縄の一般的な祭祀として知られている。
シーミーの際は、おかずとお餅が入った重箱を2つ用意し、祖先のための供物とする。そして墓前にゴザを敷き、祖先に日頃の感謝や想いを馳せながら、親族一同が会食するのだ。シーミーは亡き家族との再会の場であり、家族の絆を確認する行為でもあるのだろう。家庭によっては、ゴザの代わりにブルーシートやレジャーシートを敷き、日避けのテントを設置しているため、知らない人が見るとまさにピクニックかもしれない。
死者と生者の距離が、本土よりも近い沖縄。一見、ただの山や墓に思えても、そこには“何か”が宿っている。山を歩き、土地を訪ねるときは、その静かな気配に、そっと敬意を払って楽しんでほしい。
【参考文献】
大城博美「シーミーの現代的展開―スーパーが支える年中行事―」(『南島文化』45巻, p. 21-40, 2022年)
越智郁乃「『墓の移動』を通じた『沖縄』研究の再考 : 沖縄・墓・人類学 <論説>」(『アジア社会文化研究』10号, p57-72, 2009年)