■自然に「悪い天気」はない

15分ほど歩いたら、念願の尾瀬名物・水芭蕉が姿を現した。尾瀬の水は本当に豊富で、木道の下にも水が流れている。その透明な水の中で白い水芭蕉が群生している。晴れた日もきれいだろうけれど、重い雲と小雨が水芭蕉の美しさをさらに引き立てていた気がする。葉っぱもより一層グリーンが鮮やかに見えて、それが美しい。
木道を1時間ほど歩いて樹林帯を抜け、開けた景色に出る。今日の目的地は、さらに2時間ほど先の見晴キャンプ場。そこにテントを張った私たちは、小雨が降る中、燧ヶ岳にパパッと登ってきた。キャンプ場に戻った後は、夕飯を作ってゆっくりとビールで乾杯した。天気は一向に回復せず、山頂からの展望も限りなくゼロに近かったけど、楽しい思い出しかない。やはり、仲間は大切なのだ。

私の母国・ロシアには、「自然に『悪い天気』はない」という諺がある。たしかに、悪いのは天気じゃなくて人間の都合だ、と私は思う。雨や風、雪も、すべてが生命のためには必要不可欠。雨が降らなければ、作物も育たないのだから。
■やはり雨の尾瀬がいいのよ

翌日は来た道を鳩待峠に戻るだけだったけど、途中から雨が強まって、びしょ濡れになってしまった。それすら気持ちがよく、私は全身で雨を受けて、はしゃいでいた。だって、自然には悪い天気なんてないし、水芭蕉が満開の尾瀬には雨が似合うんだもの。晴れの尾瀬にもおじゃましたことがあるけど、濡れた木道が滑ることに注意しさえすれば(この日、私は思い切り転びました)、やはり雨の尾瀬がいいのよね。

ちなみに、その昔、尾瀬にダムを作る計画があったらしい。なんと77年間にも渡って論議がなされ、環境問題を含むいろいろな問題が浮き彫りとなった結果、最終的には計画は中止となったそうだ。もし、中止とならなければ、はるかな尾瀬は完全に水没していただろう。ダムができなくて、本当によかった。
(*本記事は『日本で山登りはじめました 外国人の私が感じる特別な魅力』から一部抜粋、再編集をしたものです)