■思わず足を滑らせた一ノ越までの下山ルート
じっくり時間をかけて絶景の中に身を置き、気分も新たに下山することにした。広場にあった標識を見ると、ここから一ノ越の山小屋を経て、一気に室堂平まで下りられることがわかった。よくよく地図を見ると、こちらの下山ルート、実は浄土山や雄山への正式な登山ルートだった。こっちのルートから来れば、あんな岩山を這い上るようなことはしなくても良かったんだ、とこの時気づいた。でも、そもそも我々は浄土山を目指していたわけではないし、こんな貴重な体験をさせてくれたあのガイドさんには、やはり感謝の気持ちでいっぱいである。
一ノ越までのルートは一見するとなだらかな下りだったが、稜線に沿って滑りやすい砂利と石がゴロゴロしている登山道の道幅は狭く、うっかり足を滑らせそうで気を抜けない。とはいえ、道中の風景があまりに素晴らしいので、どうしても目線があちこちに動いてしまう。注意しながら歩きつつ、写真を撮るのについ夢中になってしまったその時、「危ない!」と言う相棒の叫び声が背後から聞こえた。と同時に、ズルッと足を滑らせて思い切り転んだ。無意識に咄嗟に身を丸めたので頭は打たずに済んだが、一歩間違えば頭部を後ろの岩に強打して大惨事になっていた。立ち上がってから肝を冷やした。気を落ち着けようとゆっくり深呼吸をして、リフレッシュしてから再び歩き始めた。
■忘れられない景色となった万年雪と緑の渓谷、そして海
一ノ越からその先の雄山まで行ってみようか、という話も出たが、雲がどんどん出て来たことと暑さで体力が消耗していたので、今回はここまでで切り上げることにした。山小屋からは一本道を下るだけだが、途中に小さな神社の祠があったり、万年雪の真ん中を突っ切ったりと、楽しみながら歩き進んだ。あっという間に室堂平のターミナルまでたどりつき、1日だけとは思えない充実した山での時間を大満足のうちに終えた。
夜、ホテルで相棒に「初めての日本アルプスはどうだった?」と尋ねると、「すごく気に入った」と満足げな笑顔が返ってきた。「立山の環境は本当に美しくて、素晴らしい渓谷や風景に出会えた。何より、海にこれほど近い高山の「高山」環境があるとは予想してなかったから驚いたよ」と目を輝かせている。イタリアのアルプスとは大きく異なる日本アルプスの形や色、空の色もイタリアの山々とは色合いが全く違う、と興奮気味に話し、「次はまた別の山に登ってみよう」と再訪を誓って立山を後にした。
文・写真/田島麻美