■薄暗い源流から次々に飛び出してくるイワナ
日の出時刻を迎えても谷間にある源流域ではまだ暗い。そんな時間帯から釣りを始め、魚に気付かれないように姿を隠しながら毛バリを水面に落とす。
筆者が行う「テンカラ釣り」は、仕掛けが竿とラインと毛バリだけのシンプルな釣法で、魚のいそうなポイントに毛バリ(疑似餌)を落とす。本物のエサとは違い、水生昆虫や陸生昆虫に見立てた毛バリを使うので、魚にじっくり見せたり何度も見せるようなことはせず、反応がなければさっさと次のポイントへと移動する。テンポよく、スピーディーに釣り上がって行くのがテンカラのスタイルだ。
川幅が狭くなる源流域では、魚のいるポイントが限られてくるが、それでも時折あらわれる瀬や淵と呼ばれる流速や水深など変化のあるところでは魚が溜まっていることが多く、狙いどころだ。
魚に気づかれないようゆっくりとした動きで、木々に身を隠しながら距離を詰め、キャスティングできる場所まで移動する。
流れの落ち込み付近(核心部)に毛バリを落としたくなる衝動を抑えながら手前の「ヒラキ」と呼ばれる流れ出し付近のポイントから毛バリを落としていくと、次々とイワナが飛び出してきた。
春先など気温が低い時にはあまりいないような場所に潜んでいたりもするので、細かく丁寧にポイントを分けてキャスティングすることが釣果を上げるコツだ。
■登りつめた先、もういないだろうと思ったところで出た「尺オーバー」
源流を上りつめていくと水量はどんどん少なくなり、やがて釣りができるような川ではなくなる。「ここで終わりにしよう」、そう思って毛バリを投じた場所から尺イワナ(30cm以上のイワナ)が飛び出してきた。
まさかこんなところにと思ったところからの大物の出現に慌てながらもタモ(魚を取り込む網)にキャッチすることができた。
サイズを測ってみると33cmあった。少し痩せてはいたが、元気がよかった。釣り上げた中で一番大きなサイズだったことから「川の主(ぬし)」と名付け、流れに戻すとゆっくりと慌てることもなく水中に帰って行った。
警戒心が高く、簡単には釣らせてくれない渓流魚。魚に気づかれないよう、気配を消すところから駆け引きは始まっている。
9月末の禁漁期間まであと少し、限られた時間の中、まだまだテンカラ釣りを楽しみたいと思う。源流域を含めた渓流釣りは安全面に気を配ればテンカラ以外にもフライフィッシング、ルアー、エサ釣りといった好みのスタイルで楽しむことができる。
もちろん釣果を求めて出かけるのだが、源流域は夏でも涼しく景色が良い。たとえ釣れなかったとしても心地よい時間を過ごすことができる。暑気払いを兼ねて源流域で休日を過ごしてみるのもよいのではないだろうか。