■南八ヶ岳の冬山とは

 長野県から山梨県の南北にまたがる八ヶ岳。北部は蓼科山や北横岳など比較的なだらかで登りやすい山が多いと言われているが、南部の赤岳や阿弥陀岳、横岳などは冬に登るのは、たとえ熟練者であっても難しいとされている。

 筆者は雪山にも登るが高所が苦手だ。荒々しい岩峰に氷が張りつく赤岳や横岳に登ることはとても怖いが、美しい山容や稜線を見るのは大好きだ。

 そんな筆者が楽しむ冬の南八ヶ岳のルートを紹介する。とはいえ冬の南八ヶ岳は北八ヶ岳に比べてもずっと難易度が増す。容易な入山はやめよう。雪山に必要なギアを揃え、体力や知識、経験を蓄えて挑戦してほしい。

赤印が1日目、青印が2日目のルート(国土地理院地図を利用し作成)

■1日目:行者小屋 ~ 中山乗越展望台

 中央自動車道・諏訪南ICから約20分で到着するスタート地点 美濃戸口の「八ヶ岳山荘」は、120台もの車が停められ、24時間解放のフリースペースや仮眠室があるなど、登山者にはありがたいサービスが感じられる山荘だ。ここに車を停めて南沢を遡って行者小屋に向かう。

行者小屋へ向かう針葉樹の森

 息を吸い込むと鼻が痛くなる冷え切った空気の中、針葉樹の森に分け入っていく。鳥の声と風の音に包まれて、「ああ、冬山にやってきたんだな」と実感が徐々にこみ上げてくる。朝日が斜めに木々の間から差し込んだ。どうやら好天の予感だ。

 今日はこの先どんな景色が待っているのだろう。期待がどんどん膨らんでいく。筆者が入山した年は雪が少ないと聞いていたが、やはりとても少なかった。サクサクと雪を踏みしめながら南沢に沿って標高を上げていった。

冬季休業中の行者小屋でアイゼンを装着

 行者小屋に到着すると視界は開けて、目の前に赤岳、横岳、阿弥陀岳の美しい岩峰が屏風のように並んでいるのが見える。岩に叩きつけられた雪が氷となりへばりついて、荒々しい姿がとてもかっこいい。ここから赤岳に向かうのは上級者だけだ。

どうですかこの迫力!! 真冬の八ヶ岳赤岳

 間近で赤岳の素晴らしさを堪能し、どうしても登りたいと思ったら、ガイド付き登山や雪山講習会に参加するなど、必要な知識やスキルを身につけてから臨もう。

 行者小屋に戻り、宿泊する赤岳鉱泉までの間に「中山乗越展望台」という素晴らしい展望台がある。少しだけ遠回りとなるが、その価値は十二分にあり、八ヶ岳の雄大さを感じられる場所だ。ここで撮った写真はベストショット間違いなし。

何度見てもいいね! 中山乗越展望台からの赤岳

 針葉樹に覆われた森から突き出た南八ヶ岳の荒々しい姿は夏の緑も清々しくて素敵だが、雪に包まれた冬の姿は日本でない、どこか遠い国に来たような美しさだ。

 同行者と共に思い出の写真をたっぷり撮ったら、1日目のゴール「赤岳鉱泉」まではそう遠くない。

■とても快適な山小屋「赤岳鉱泉」

冬季も元気に営業中の赤岳鉱泉

 南八ヶ岳で通年営業しており、冬にも賑わいを見せる山小屋「赤岳鉱泉」は、設備や食事の素晴らしさゆえに筆者も愛用する山小屋だ。

 広い山荘内はあちこちに暖房設備があり暖かく、ここは本当に山小屋なのかと疑うほどの充実ぶりだ。個室の数も多く、ゆったりと「八ヶ岳の夜」を満喫することも出来る。

 しかしなんといっても、宿泊すると夕食に「ステーキ」を食べられる幸せは、赤岳鉱泉ならでは!  また、軽食や飲み物のメニューも豊富でどれもとても美味しい。  

赤岳鉱泉の夕食(写真提供:赤岳鉱泉)

 14時半に到着をすると、それからののんびりとした時間を赤岳鉱泉で過ごすのは快適かつ贅沢なひとときだ。日が暮れて染まりゆく横岳の「小同心」「大同心」を眺めて、美味しいステーキを食べ、ビールやワインを飲みながら今日の出来事や明日の予定を同行者と語らう。ゆっくりとした、楽しい時間が過ぎていく。夜が更けると星は出ているのかと気になり外に出て、寒い寒いとまた戻って来て眠りに落ちる。

 真冬のマイナス20℃を計測する日もある八ヶ岳で、まるで旅館のような暖かさである。同じ時期に外でテント泊をしたこともあるが、眠れないほどの寒さを知っているだけに、赤岳鉱泉のありがたみを感じる。