「峠の釜めし」といえば、駅弁ファンならずともその名を知るレジェンド駅弁だ。製造販売を手掛ける荻野屋(おぎのや)は、明治18年(1885年)創業という老舗。駅弁ブームの昨今、百貨店の催事などでも大人気となっているほか、都内でも購入可能なので、食べたことがあるという人も多いだろう。しかし、この名物駅弁を本場の横川駅で購入したという人は案外少ないかもしれない。横川は高崎から信越本線の普通列車で約30分、群馬県安中市(旧松井田町)にある山間の駅なのだ。

霧の立ち込める横川駅

 峠の釜めしの「峠」とは、群馬県安中市と長野県軽井沢町との境にある碓氷峠のこと。群馬県側の麓・横川駅の標高が387mなのに対して、長野県側の軽井沢駅は標高939m。距離にしてわずか11.2kmだが、標高差は552mもあり、最急勾配は66.7パーミル(1000分の66.7)、幹線鉄道としては世界一の急勾配として知られた難所だった。ほぼ片側のみの急峻な勾配となっているため、山脈をトンネルで抜けることで峠越えの高低差を解消できる一般的な峠と異なり、通行には数多くの困難を抱えていたのだ。

 峠を越えるために横川、軽井沢の両駅では碓氷峠専用の機関車を連結するための時間が必要だった。名物駅弁「峠の釜めし」は、その停車時間を利用して誕生したのである。昭和33年(1958年)に販売された温かい釜めしは、「駅弁は折り詰め」という常識を覆す画期的なものだった。鶏肉・シイタケ・タケノコ・ウズラの卵・ささがきゴボウ・紅しょうが・栗・あんず……、益子焼の容器にぎっしりと詰まっている。何度食べても安定の美味しさだ。

廃線ウォーク参加者に提供される「峠の釜めし」 

■廃線ウォークに参加するも雨で続行不能に!

 さて、駅弁が大好きなアイドル、“さっほー”ことAKB48の岩立沙穂。今回は「廃線ウォーク」に参加し、全行程のほぼ中間地点にある旧熊の平駅でこのレジェンド駅弁をいただく予定だった。廃線ウォークとは、1997年に廃止となった旧信越本線の横川〜軽井沢間(碓氷線)の廃線跡を歩くツアーで、週末を中心に開催され、人気イベントとなっている。そして、熊ノ平は日本の歌百選にも選ばれている童謡「もみじ」の舞台として知られ、秋には燃えるような紅葉に包まれる。この駅から紅葉を眺めた作詞者の高野辰之が、その美しさに惹かれて詞を作ったという場所だ。

 しかし、ロケ当日は生憎の雨。ワークマンで揃えた雨具を纏い、ヘルメットも装着して廃線ウォークに挑んだのだが、次第に雨足が強くなり途中で断念。トロッコ列車「シェルパくん」に乗って横川に戻り、「碓氷峠鉄道文化むら」の園内でいただくことになった。

廃線ウォーク https://haisen-walk.com/

廃線ウォーク。懐中電灯とヘルメットはレンタルできる