■日本で一番小さな鹿は希少な固有種

 慶良間諸島には、日本でいちばん小さな「ケラマジカ」という鹿が生息している。天然記念物にも指定されてる希少な固有種で、15年前の阿嘉島ではそう簡単には出会えなかったのだが、島の人によれば、最近は集落の近くでもよく見かけるそうだ。

 結局、小1時間の散歩中に出会ったのは、4頭のケラマジカと3匹の島猫、そして1人のおばぁであった。鹿も猫も人を極度に怖がることはなかったが、近づくと離れる一定の距離感を保っていて、まだきちんと野生が残っていることを感じさせた。

 ……そしてこの後、私たちは非常に珍しい光景に出会うことになる。

一緒に朝の散歩を楽しみ、浜辺の草むらで戯れる鹿と白猫
とある民家の庭で猫と鹿

■阿嘉島で遭遇した非常に珍しい光景とは?

 筋道を歩いていた1匹の島猫を追いかけて、ある民家の生け垣に辿り着くと何匹かの島猫たちが戯れていた。「わ〜 たくさんいるぞ〜」と夢中でシャッターを切り、ふと庭に目を向けると、くつろぐ猫たちに交じって1匹のケラマジカがじっとこちらを見つめていた。

 最初は驚いたが、しばらくそっと眺めていると、やがて鹿が1匹の猫に近づいてお互いに毛づくろいを始めた。家主さんいわく、この鹿は夕方になるとやってきてガジュマルの葉などを食べながら庭で過ごし、翌朝帰っていくのが日課だそう。その通り、鹿は日の出前に猫たちと一緒に浜辺に出かけ、静かに山へと帰っていった。

慶良間諸島には、毎冬、クジラが出産のためにやってくる
屋根の上で夕焼けを眺めていた彼らは、朝、木登りも楽しんでいた

文/シマネコキネマ 写真/仲程長治