魚がいるのになかなか釣れない。そんなときこそ、一層(ムキになって)燃えることがないでしょうか。簡単に釣れるより、手強く賢い魚にこそ夢中になってしまう。なんだか恋愛と似ている気もします。

 豪雪地帯である北信濃。ここのところの冷え込みのせいか、谷間には藤の花がまだ咲き残っていました。桐やニセアカシアもほのかな香りを漂わせています。移動の途中で立ち寄った魅力的な流れとそこに泳ぐヤマメたち。手強い魚にすっかり夢中になって「釣れるまで帰れません」モードに。

■乱舞するカゲロウたち! その下には良型ヤマメがいた!

一見穏やかそうですが、変化に富んだ流れ。よく見ると小さな虫たちが写っています

 長野から新潟県の川へ向かう途中でした。川(目的地とは別)に沿って車を走らせていると、コンディションがよく、どうも気になってしまいます。周辺で一番、魚が集まっていそうなラン。ヤマメが好みそうなポイントです。休憩がてら、しばらく観察することにしました。ライズはありませんが、「絶対にいいヤマメが入っている」そんな確信があったので、目的地を変更して竿を出すことにしました(年券所有)。

力強く飛翔するカワゲラ。バランス的には決して飛ぶことに適してなさそう

 ちらほらと舞っている小さなカゲロウに混ざって、一際大きくオレンジに輝きながら飛翔するカワゲラ。やがて透明感のあるカゲロウたちが一斉に舞い出しました。エルモンヒラタカゲロウかと思いましたが、よく見るとヒメヒラタカゲロウのようです。夕日を受けて輝く様に神々しささえ感じ、夢中でシャッターを切りました。

ロッドを置いて写真撮影に夢中に。ふと目をおとすと、カゲロウがすぐそばまで休みに来ていました

 相変わらずライズはありませんが、このタイミングでドライフライに切り替えました。ヒメヒラタのハッチの中に徐々に大型のモンカゲロウが混ざるように。さらにヒゲナガカワトビケラがまとわりつくようになり、虫たちの活動は最高潮へ。いよいよ期待が高まります。

 するとようやく、ぽつりぽつりとライズが始まりました。流れ込みが開き、流心がボケてきたあたり。広い川幅の、捕食レーンに正確にフライを乗せたときだけ、ヤマメが鋭く水面を割ります。何度か空振りした後、対岸ギリギリのラインを流し、ピックアップしようとした瞬間にフッキングしました! 水底まで引き込まれるような強烈な引きです。

 やがて魚の顔が見えてきました。まるでサクラマス(この流域では採捕禁止)を彷彿とさせるような、銀色に輝く体高のある魚体! 高鳴るに鼓動! 平常心を保つのに一苦労です。なんとか浅瀬に寄せ、ネットに招き入れようとした瞬間、ヤマメは流れの中に消えていきました。浅瀬でテンションが抜け、フックが外れていたようでした……。

 呆然とする僕をよそにカジカガエルの声が河原に響き、瀬音と見事なハーモニーを奏でていました。