日本アルプスの北部に位置する飛騨山脈は標高3,000m級の日本を代表する山々が連なる。一般的には「北アルプス」という呼び名で親しまれ、世の登山者憧れの山脈だ。ここには日本の標高第三位の奥穂高岳(標高3,190m)や槍のように尖ったピークが象徴的な槍ヶ岳(標高3,180m)をはじめとした、日本屈指の高山が多い。それぞれのピーク同士は繋がっていて、どこまでも続く荒涼とした稜線はハイカーの心くすぐる光景だ。

 主だった山の頂上は森林限界を超えているので山上からは大パノラマが望め、これぞトレッキングという眺望。景色だけでなく、色とりどりの高山植物が咲き誇るお花畑や夏でも溶けない雪渓など北アルプス特有の山歩きも出来る。そんな魅力溢れるエリアにおいて、今こそ登りたい!  と熱く推薦する山を編集部が厳選して6座をピックアップ。1座ずつ全6回の連載としてお届けする。第5回目はハイカーの聖地“涸沢カール”からアタックする「北穂高岳」。自分のレベルに合わせてこの夏、チャレンジしてほしい。

■[長野県]北穂高岳(きたほだかだけ) 標高:3,106m   行程:1泊2日

歩行時間:16時間30分
技術レベル:★★★★☆
体力レベル:★★★☆☆
【オススメポイント】
1.涸沢を拠点にして過ごす
2.穂高連峰の一座
3.山頂から眺める大キレットの壮大な眺め

●岩壁が聳える穂高連峰

 北アルプスの南部に位置する穂高連峰。最も高い標高3,190mの奥穂高岳を中心に西穂高岳、前穂高岳があり、その北端に位置するのが標高3,106mの北穂高岳だ。南北に二つのピークを持ち、最高地点は標高3,106mの南峰。

 北穂高岳の先には南岳へと通じる日本三大キレットの一つ「大キレット」が延びており、槍ヶ岳と続く縦走路になっている。北穂高小屋から見下ろすと、細い稜線は両脇が切り立った崖となっており、難所が連続することが一目でわかる。

涸沢を過ぎて穂高連峰の岩肌に取り付く

●ルートガイド

 北穂高岳へのアプローチは、涸沢をベースに南陵からが一般的。とは言っても、急な岩稜を登り下りするルートは決して易しくない。クサリやハシゴが設置されているが、難易度が高い登山道となっている。大キレットを越えて、または涸沢岳から主稜線を辿って登頂することもできるが、さらに難易度が上がる。

 上高地バスターミナルから歩き出し、小梨平、明神、徳沢、横尾と進むにつれ観光客は徐々に減り登山者の世界になっていく。横尾で槍沢方面と分かれ涸沢方面へ向かうと、いよいよ本格的な登山道となる。ここまでは急な登りはないものの、道のりが長いので早出厳守だ。横尾谷の対岸に見える「屏風岩」の巨大な岩壁が圧巻だ。横尾から約3時間で涸沢へ到着となる。

 登山者憧憬の涸沢カールの上部には、向かって左手側に前穂高岳、奥穂高岳、正面に涸沢岳と涸沢槍、右手側に北穂高岳がそびえ立つ。

南陵からは奥穂高、前穂高が目の前に見える

 北穂高への道のりは涸沢ヒュッテから涸沢小屋を通り過ぎて石積みの登山道を上がっていく。樹林帯を抜け岩場を登る。その上のゴーロ帯(ゴロゴロと岩が転がっている場所)では、足元に気を取られ過ぎてルートを見失わないよう、先を確認しながら登りたい。その後、長いスラブを始めとした岩場が続いていく。クサリやハシゴも設置されおり、岩肌にも必ず足を置ける場所がある。落ち着いて登ろう。

 やがて傾斜が緩んでくると稜線上、登山道の左右にテン場が現れる。ひと息ついて景色を楽しむのに最適だ。前穂北尾根の見栄えもいい。その先で涸沢岳と北穂高岳の分岐点が現れる。道標に従って北(右手)へ。松濤岩の基部を回り込むように約20分登ると山頂(北峰)に到着だ。山頂からさらに先に下った所に北穂高小屋があり、大キレットへと通じる登山道がある。帰路は来た道を戻るが、下りはさらに難しくなるので余裕をもったスケジュールで臨みたい。

登山者の聖地、涸沢カール。紅葉の時期以外は意外と人もまばらで過ごしやすい。

●絶景ポイント:北穂高小屋からの眺め

 北穂高のピークを通り過ぎてすぐの場所にある北穂高小屋は、富士山の山小屋を除けば最も高い場所にある。しかも、その場所は切り立った岩壁の上。正面に蝶ヶ岳や常念岳の眺めが良く、北を向けば大キレットとその先の槍ヶ岳までが一望できる。ここでは注文が入ってから豆を挽くコーヒーが人気。ほかに、おしるこ、キンキンに冷えたビールやジュースが売られており、抜群の景色の中で休憩できる。日程に余裕があるなら、ぜひ泊まりたい山小屋だ。

天空の展望台! テラスからの眺めは最高(あいにく槍ヶ岳はガスの中。常念岳が姿を見せてくれた