■古代ローマ時代の船が修理、建造されていた場所
遺跡見学を終えて元の遊歩道に戻り、緑の芝生に覆われた広大な敷地内をぶらぶらと歩き続ける。果てしなく広がる青空、頭上で囀る小鳥たちの鳴き声に心も晴れ晴れとしてくる。チケット売り場で一応園内マップをもらったのだが、地図を頼りに見学するより「次は何が出てくるか?」とサプライズを楽しみながら歩いていくことにした。
道なりに進んでいくと、鬱蒼と生い茂る草木に囲まれた池のようなものが見えてきた。池の周りの木々は、どことなく長方形に並んでいるように見える。ふと振り返ると、背後に説明書きの看板があったので近寄って読んでみた。説明書によると、なんとこの場所こそクラウディオ帝の港の中核を成すドックだったことがわかった。古代ローマ時代の船がここで修理されたり、建造されたりしていたのだ。今では面影も残っていないただの池だが、2千年前にはこの場所にたくさんの船が並び、職人たちが忙しく働いていたのだと思うとちょっと感傷的な気分になった。
ドックの周囲に延びた長方形の道に沿ってさらに進んでいくと、今度は倉庫群の遺跡が現れた。それぞれのブースが四角い壁で仕切られている倉庫群は、以前オスティア・アンティカの遺跡で見た商店の遺跡を思い出させる。オスティア・アンティカやポンペイの遺跡を歩くと、古代ローマ時代の人々の生活を垣間見るような体験ができるが、この港に残る倉庫群もまた、古の時代にタイプスリップしたような感覚を体感させてくれる。
敷地内をのんびり2時間も歩いただろうか。もう見学スポットも全て制覇しただろう、と思った矢先、目の前にまたまた新たな遺跡が出現し、この遺跡の広大さをあらためて実感する。目の前にあるのは、元のクラウディオ帝の港にトライアヌス帝が増設した六角形の港の跡で、周辺にはさらに大きな倉庫群の跡も残っている。
解説を読むと、この六角形の形が港としてかなり効率良く、またよりたくさんの船を停泊させることを目的に増設された、とある。すぐ脇にはテヴェレ川に繋がる川もあり、荷物を積み替えてすぐに運搬できるような仕組みになっていたことがよくわかった。この六角形の港の形は、上空からだとまだその姿をとどめていることがわかるそうだが、倉庫の遺跡の上からは水面の一部しか見えなかった。
街の喧騒を逃れてほんのちょっと気分転換をしようと訪れたスポットだったが、思いがけず興味深い遺跡も見学でき、緑の草木や花々、小鳥たちの囀りに彩られたハイキングも楽しめて、日帰りとは思えない密度の濃い時間を過ごすことができた。こんな素敵な場所なのに、知っている人が少ないというのもなんだか嬉しい。自分だけの秘密のお気に入りスポットを発見したような満足感に満たされて遺跡を後にした。
文・写真/田島麻美