■わずかな“時合”になんとか一本!

 このまま帰ったのでは取材にならない。恥を忍んで、帰ろうとしているエサ釣り師(釣っているところを何度か見た)からレンジ(棚)などの情報を仕入れた。迷いが吹っ切れた。もはやウェットフライを気持ちよくスイングさせることを諦め、ひたすらボトムを引きずるようなドリフトに専念することにした。

午後になっても相変わらず対岸でエサ釣り師が頻繁に竿を曲げている

 しかし相変わらず右岸側は人気で、釣り人が途切れることなく連なっている。車で移動してさらに下流へ行くことも考えたが、冬季シーズン初の利根川遠征だ。川見もしていないので勝算が見出せず、午前中と同様に左岸側を再び釣り下る。

 流れの集約するポイント、流心の脇をじっくりと沈めたウェットフライを流していくと力強いアタリとともに激しい引き! さすがはハコスチ。流れの強さもあって簡単には手元に寄せることができない。と思ったら、いきなり上流へ方向転換、しかも僕の足元の方に走ってきた。そのままバンク(岸)際の“えぐれ”に入り込まれてしまい、ラインブレイク。天を仰いだ……。

 気を取り直しラインを結んでいると、対岸のフライフィッシャーがロッドを曲げている。しばらくファイトした後、フックアウトしてしまった様子。その気持ち、よく分かります。「ひょっとして時合か?」そう言えば川面に飛び交う虫の数も増え、流下するシャック(抜け殻)の量も目につくようになっていた。

 少し下ったところで、先ほどと同じ流し方で再びヒット! 慎重にやり取りして無事にネットインしたのは、体長こそ50cmに満たなかったが、なかなか精悍なハコスチだった。

ようやく獲れた一本! 西日に輝いている

 ちょうど一部始終を見守っていた漁協の人とほくほく笑顔で話した後、このチャンスを逃すまいと釣りを再開した。しかし後が続かなかった。最後にランの後半の一級ポイントで流すも無反応。川幅が狭まっている場所なので、わずか15mほど先、対岸の釣り人が竿を弓形に曲げている。カメラを取り出し、夕日に染まる川と空、そして群馬県庁。いいシャッターチャンスだった。