先日、久しぶりに都心に出た。東京の桜は開花して間もないけれど、4月を前に満開になる勢い。バスで駅に向かう道すがら、乗り合わせていた乗客が車窓に広がる桜のトンネルを見上げている。手元にあるスマートフォンに視線を落とす光景が日常となった昨今、みんなが一斉に顔を上げてなにか共通のものを見上げるということが、なんかいいな、と思った。

 桜を見上げる、といえば、棒ノ嶺の山頂を思い出す。1本の大きな桜の木が、まるで羽を目いっぱいに広げたクジャクのように艶やかで、それ目当てのハイカーで賑わう山だ。みんながこぞって桜を見上げている様子を、少し離れた場所から眺めるのが気分。あのときも同じように、いい光景だなぁと思ったのだった。

■埼玉の奥武蔵と東京の奥多摩にまたがる「棒ノ嶺」

棒ノ嶺の山頂を彩る大きな桜の木。やや見ごろを過ぎてなお存在感は絶大

 棒ノ嶺は、埼玉県飯能市と東京都奥多摩町にまたがる山。このエリアではハイカーからの人気が高い低山で、眺望に優れた標高969mの山頂と日帰り温泉がある山麓をセットで楽しむコースがポピュラー。公共交通機関でアクセスしやすいこともポイントが高い。

 上りで利用される登山道は、圧倒的に白谷沢だろう。この谷筋がとてもいいのだ。歩いてみると、左右に屹立する狭隘な岩壁の迫力に圧倒される。こうした地形を「ゴルジュ」という。その狭い壁のような岩の間を縫うようにして、ひと筋の白い沢が流れている。

 本当に気持ちがいい道だから、急がずに一歩一歩進みたい。

切り立った岩壁に挟まれた迫力のゴルジュをゆく

 ゴルジュの区間は渡渉(川を渡ること)するところ、足場が不安定なところ、急なところ、補助として鎖が設置されたところなど、いささか用心が必要となる。道の状況を見ながら、頭と全身とを駆使して登るアスレチックコースに挑む…… そんな気持ちで楽しもう。