信州の湖、「諏訪湖」へ降りたサツキマス(アマゴ)が、広い湖で回遊して大きく育ち生まれた川へ帰る(遡上)。これが「諏訪マス」だ。「ノボリ」とも言うらしい。川に残れば「縄文アマゴ」。この2種のアマゴは遺伝子的にも共通性があり、八ヶ岳から諏訪湖にかけての固有種だと言う。

 諏訪マスは40cm以上になるものもいるらしく、大物であることとその希少性から、「ぜひとも釣りたい!」そう思い続け、この数年諏訪湖流入河川へ足を運んでいる。どうやら梅雨の増水で遡上してくるらしい。

■先月の事故「工場廃液の流出」。その影響は?

上川。漁協(諏訪東部漁協)前

 気になっていたのは、今年(2021年)6月に茅野市内のプリント基板製造会社から廃液が流出した事故の影響だ。廃液は上川にも流れ込み、死んで浮いているアマゴたちが発見されたことで事故が明るみになった。水質の汚染は基準値以下で、すぐさま人間の生活に影響がでるものではなさそうだったが、下流で農業を営んでいたりする方は心配だったに違いない。

 実はその直後に上川に釣りに入っていたのだが、釣果がまるで振るわなかった。ただし、アタリは何度もあったので魚はいた。単に僕の腕のせいだろう……。いずれにせよ、それから雨もずいぶんと降り続いたので廃液の影響ももうないだろう。

 程よく増水した川はまさにノボリが遡上してきそうな雰囲気で、「今日こそは!」と期待を胸に川辺に降りた。

■増水のタイミングを狙って上川へ

上川の中流部。朝方は天気も良く、水量は多いが濁りもなかった

 目ぼしいポイントでウェットフライ(沈むタイプの洋式毛バリ)を流し、頃合いを見計らって誘いを入れると反応がある。けれども明確なアタリの割に鉤(ハリ)にかけることができない……。

 ようやく釣れたのは小ぶりのアマゴ。諏訪マスでもなければ縄文アマゴでもなさそうだったが、美しい魚体は宝石のようで見とれてしまう。引きも(サイズの割には)強かった。

 やがて諏訪湖に降り、立派な「ノボリ」となって再び僕の鉤にかかってくれるといいな。「それまで釣られるなよ」そんな自分勝手な思いを込めて、そっと流れに帰した。

 ここで雲行きが怪しくなってきたので一度退渓した。豪雨が1時間ほど降り、ようやく止んだときには、釣りをする気がなくなるほど水量が増えていた。