■滝雲の流れ込む森を抜け、荒々しい岩稜の待つ鋸岳山頂に立つ

白岩岳を越えて一息つくと、樹間から見事な雲海の先に鋸岳、北岳、仙丈ヶ岳が見えるようになる
岩場に咲くクモイコザクラは、暗くなりがちな梅雨時期のアイドル的存在 

  白岩岳からは、伊那谷方面の見事な雲海と中央アルプスの眺めが素晴らしい。そこから東へ目線を動かすと、伊那谷からこれから歩く横岳峠へ続く稜線に滝雲が流れ込んでいる。まだ先は長いので足早に歩き出した。やはり、森の中は霧が立ち込めている。雲の下に入ったのだろう。苔とシラビソが瑞々しい。時折、岩場にクモイコザクラが咲いている。梅雨時期に咲く可愛らしい花の代名詞的存在であり、見つけるとその都度休憩である。

 それなりにアップダウンを繰り返していると、少し細い稜線の横岳を過ぎて、横岳峠に着く。気づけば、いつの間にか木漏れ日に包まれている。大休止をしていると、釜無川源流から日帰り登山者がちらほらと登ってくる。軽装な人達の後ろ姿はあっという間に見えなくなった。

 ここから苦笑いの直登である。こんなに真っ直ぐ登らせる登山道も珍しい。気づけば荒々しい岩の世界に足を踏み入れていて、三角点ピークに飛び出していた。ここから第一高点と呼ぶ、鋸岳の姿が迫ってくる。北アルプスのような槍穂高とも違う、南アの孤高の峰だ。

 第一高点までは慎重になる岩稜歩きが続く。足元はできれば、岩場に強いアプローチシューズ系が望ましい。昨今では、ヘルメットを被る登山者もよく見かける。僕の場合は写真に集中したいので、ヘルメット被って歩く機会が多い。ファインダーに集中してると何かに頭をぶつけるリスクもあるからだ。帽子代わりに被ってもいいくらい軽量なヘルメットも登場している。滑らない靴や命綱、ヘルメットなど、岩場で写真を撮ろうとするなら(岩場を歩くなら)、準備しておくにこしたことはない。

 第一高点からの展望はゾクゾクする高度感と開放感がいい。先に続く鋸刃の稜線は眺めるだけでも緊張するし、お尻がむず痒くなる。遠くを眺めれば、沢筋に少しだけ残る雪模様の南アの主峰郡が並ぶ。

 一息入れたら慎重に登ってきた道を引き返す。樹林帯に入れば、少しリラックスして横岳峠のT字路を釜無川源流へと下る。ここ数年の豪雨で荒れてしまっているようだが、富士川源流の一滴、久しぶりにがぶ飲みしたくなる美味い湧水が待つ。喉を潤したら、あとは長い長い林道歩きの先に待つゲートを目指す。川を眺めていると、テンカラ竿を背負ってくればよかったなと後悔である。

ギザギザした稜線が甲斐駒ヶ岳へと続く。安易に立ち入らないように