■ついに出た! 渾身の一投で手にした66cm

待望の風が吹き始め、水面に細かなさざ波が立ちはじめた。これによりルアーの存在感が和らげられ、魚の警戒心も薄れているはずである。ついに、こちらから「仕掛ける」ときがやってきたのだ。
そしてそんななか、あの個体が再び姿を現した。筆者の存在には気づいていないようで、時おり水面に落ちた虫を静かに捕食している。その様子をじっと観察しながらタイミングを見計らい、進行方向の数メートル先へセミルアーを慎重にキャスト。ルアーは柔らかく着水し、波に揺られながら水面を漂いはじめた。
ロッドを握る手に自然と力がこもる。緊張と興奮で胃のあたりがじんと痛む。魚がルアーの真下でぴたりと止まった。次の瞬間、小さな波紋とともにルアーが音もなく水中へと消えた。その光景は、まるでスローモーションのようだった。
はっと我に返り、一呼吸置いてアワセを入れる。次の瞬間、水面が激しく割れ、大きな水柱が上がった。フッキングに成功したのだ。相手は一気に沖へと走り出した。
ロッドは大きく弧を描き、ラインは風を切って鳴る。強烈な突っ込みに耐えながらも冷静にロッドをさばき、魚の動きに合わせて慎重に距離を詰めていく。相手は明らかに良型。走られては寄せ、寄せてはかわされる攻防の末、ついにネットに収めることができた。
「やった! ありがとう」



相手は全長66cmのオスのブラウントラウト。下あごはしゃくれ上がり、これぞオスだという精悍な顔つきをしている。すべてのヒレが大きく、整っており、強烈な引きの強さにも納得した。
ネットの中で身をくねらせるその一尾を見つめ、大きく安堵の深呼吸をひとつ。魚の行動を見守りながら風を待ち続けることおよそ3時間。その末に放った渾身の一投。すべては、この一尾に結実したのだった。
筆者が使用したタックルは以下のとおりである。
【使用タックル】
・ロッド:トラウト用のスピニングロッド 8フィート
・リール:スピニングリール 2500番
・ライン:PEライン 1.0号
・リーダー:フロロカーボンライン 10ポンド
・ルアー:春ゼミを模した小型のトップウォータープラグ(3~4cm前後)
・フック:シングルのバーブレスフック
■春ゼミが鳴く湖で、今年もあの感動を再び

風を待ち、魚を見つめ、渾身の一投を放つ。そうして出会えた66cmのブラウントラウトは、繊細な駆け引きの末にたどり着いた、一尾の重みを感じさせる存在だった。
春ゼミパターンは、自然と魚、そして釣り人が静かに対話するような釣りである。風、虫、光、波、これらの条件がすべて揃ったときに成立するこの釣りには、釣果以上の深い充足感がある。
そして今年も、中禅寺湖に春ゼミの季節がやってくる。あのときと同じように風を読み、水面を見つめ、魚と向き合う時間がまた始まる。記憶に残る一尾に再び出会えることを願い、タックルを手に中禅寺湖へ向かいたいと思う。
管轄漁協:中禅寺湖漁業協同組合 http://www.chuzenjiko.or.jp