秋田、岩手、宮城の県境に位置する栗駒山(くりこまやま・標高1,627m)は、紅葉の名所として知られているが、花の山としても人気があることをご存じだろうか? 花の百名山に選定されており、初夏にはイワカガミやタテヤマリンドウやヒナザクラなどが咲き誇る。そこで、今回は初夏に花見登山として訪れた様子をレポートする。花盛りの栗駒山の美しさをとくとご覧いただきたい。

■産沼コースから天馬尾根コースへ

須川高原温泉側にある栗駒山登山口

 今回利用したのは岩手県側の須川高原(すかわこうげん)温泉から登る産沼(うぶぬま)コースと、秋田県側に下る天馬尾根(てんまおね)コースである。

 筆者が訪れたのは、2024年6月15日。朝9時ごろに登山を開始し、ほかの登山者たちも続々と登り始めていた。登山口のすぐそばには須川高原温泉があり、登山道脇から温泉が流れているのが見える。流れている温泉から湯気が立ち昇り、辺りは硫黄の匂いが漂っていた。

栗駒山の登山道に咲くイワカガミ
釣鐘状に花をつけるウラジロヨウラク

 なだらかな坂を登っていると、登山道脇にイワカガミやウラジロヨウラクが咲いていた。イワカガミは、小さな円形のブラシのような花をつけ、薄ピンク色に染まっている。ウラジロヨウラクは、釣鐘状のピンク色の花がいくつもついている。風に揺られ、風鈴のようにたなびく姿がなんとも癒される。

■ワタスゲとイワイチョウが咲き乱れる名残ヶ原

ワタスゲが咲き乱れる名残ヶ原

 歩き始めて約20分で、名残ヶ原(なごりがはら)と呼ばれる湿原に出る。湿原のなかには、白くて丸いポンポンのような高山植物、ワタスゲがたくさん咲いている。緑の湿原に白のワタスゲが群生している光景はとても風情があり、心安らぐ空間を醸し出していた。

可憐に咲くイワイチョウ

 ワタスゲに混じってイワイチョウも咲いている。可愛らしいワタスゲとは異なり、イワイチョウには凛とした美しさがある。

■産沼付近に群生するツマトリソウとミツバオウレン

可憐さや気品が漂うツマトリソウ

 名残ヶ原を過ぎると、本格的な登りが始まる。樹林帯のなか、足元に目を向けるとツマトリソウが咲いている。パッときれいに花びらを咲かせたツマトリソウは、可憐さや気品が感じられる。

雪解けが進む産沼

 登山口から歩いて約1時間半、2本の短い沢を渡った先に産沼(うぶぬま)に到着した。6月の産沼はまだ半分雪に覆われており、夏ながらも涼しさが感じられた。

栗駒山に群生しているミツバオウレン

 産沼からさらに登っていくと、植生が低木帯に変化している。辺りを見回すと、足元にミツバオウレンが咲いているのを見つけた。さらに、コバイケイソウやハクサンチドリが咲き始めており、盛夏への移り変わりが見られた。

■栗駒山山頂直下にひっそりと咲くヒナザクラ

栗駒山山頂の標識

 産沼からさらに1時間歩き、11時半頃に山頂に到着した。山頂にはすでに30人くらい集まっており、景色を眺めたり食事をとったりと、にぎわっていた。山頂から宮城県側の方面を見渡すと、登山口のいわかがみ平が見える。さらに右へ目を向けると、眼前から奥に向かって雲が広がっており、雲海の絶景であった。

栗駒山山頂から望む雲海

 「山頂付近にヒナザクラが咲いている」という事前情報を入手していた筆者は、宮城県側へ少し下った。歩き始めて1分、ヒナザクラはすぐに見つかった。登山道脇にひっそりと咲いており、まるで登山者を陰ながら見守っているようであった。ヒナザクラは白い花をつけ、中心部は黄色に染まっているのが特徴だ。