山で失敗や困難に直面したとき、体系的に登山に関する知識を学んでいたら良かったと思うことはないだろうか。そんな登山者の希望に応えてくれる登山学校が京都にある。

 募集は年に1回、例年5月に入学し翌年3月に卒業する「1年コース」のみであるが、ここからは毎年40〜50人が巣立っており、登山歴9年の筆者も1年間、基本を叩き込まれた。

 おかげで今ではテント泊、アルプス縦走、読図、登山計画書の作成など一通りをこなせるようになった。思い出の「母校」を久しぶりに訪れ、学びの現場をのぞいてきた。

■(一社)京都府山岳連盟の「登山学校」とは

スタッフに「今どこかわかる?」と質問され指で示している

  登山学校を主宰するのは(一般社団法人)京都府山岳連盟。登山の基礎知識を学びたい16歳以上の人であれば誰でも入学できる。例年5月から翌年3月までの間に全9つのテーマがあり、「山の装備の選び方、使い方」「山でのケガや事故の対応」など月1回の座学と、その時の課題に即した実習登山がセットで学べる。

 今回筆者は「山の地図」を学ぶ実習に同行し、参加者と一緒に平地や登山道を歩いた。

■実習では「読図」に挑戦!

スタッフの今井さん(男性)と地図の勉強中

 この日は受講生44人が参加。5班に分かれ、それぞれにスタッフ2名が配置された。1週間前の座学でコースの地図があらかじめ配られており、実習では地図と実際の地形を見比べながら歩いた。

事前に配布された地図

 筆者もそのうちの1つの班に同行した。参加者たちは前週の座学で、地図の等高線などを読み解いて地形をイメージ。尾根線と谷線を地図上に落とす方法を習得している。

 実習では2人1組になり、地図とコンパスを駆使しながら指定されたポイントに向かった。先頭を交代しながら進んだが、先頭じゃない時も常に地図とにらめっこ。先週学んだ知識を発揮し、みんな初めてとは思えないほどスムーズに指定ポイントに到達できた。しっかりと周りの景色を確認しながら、指定されたポイントまで歩いていく。

■「安全登山学びたい」参加者の8割が登山歴あり! 

スタッフの栗野さんの説明を熱心に聞く参加者たち

 この学校にはどういう人が参加しているのだろうか。年齢層は20~60代と幅広く、大半はソロで参加。初心者向けの内容にもかかわらず、登山未経験者は10人ほどで、登山歴のある人が多数を占めた。

 きっかけも職場の同僚や友人の影響で入った人が多く、登山する父親に勧められた20代女性や富士山に挑戦するために参加した夫婦もいた。ただ、みんなに共通して言えるのは、安全に登山したいという気持ちで入ったということだ。

 入学後、自分に何か変化があったかを聞いてみた。ある女性の参加者は、スマホのアプリさえあれば道に迷うことなどないと軽く考えていたという。しかし、学校で「もしもスマホの充電が切れたり、落としたりしたときに1人で下山できますか?」と質問されて答えに窮してしまった。「その瞬間、自分がいかに危険なことをしていたかを知って怖くなった。現在は読図をしっかりと覚えて、紙の地図だけで歩けるようになりたい」と思いを語ってくれた。

 ほかにも「以前は登山靴とバックパックがあれば十分だと思っていたが、今では非常食や救急キット、レインウェア、ヘッドランプなども必ず携行装備するようにしている」とのコメントがあった。そして、ほとんどの人が「山に対する意識が変わった」と口をそろえて言う。

 参加者たちは安全登山に何が必要かを学び、それを実践することの重要性をしっかりと身につけたようだった。