■11月下旬まで営業する「燕山荘」

 ハイカーにとって憧れの一つである北アルプス!  でも当地の山小屋営業はだいたい10月10日を過ぎると閉まってしまう。北アルプスの冬はとても厳しい。

 そんななか、11月下旬まで営業しているのが燕岳(つばくろだけ)直下の「燕山荘(えんざんそう)」だ。降雪期の頂上を目指すハイカーの数は少なくない。筆者もその一人だ。本記事では登山を始めて25年、雪山歴15年の筆者が2011年11月23日に日帰りで、北アルプス燕岳に登った体験を紹介する。ぜひ美しい北アルプス燕岳へのチャレンジの参考にしてほしい。

2011年11月23日晴れの日の燕岳

■風がハンパなく強い燕岳

 燕岳に限らず北アルプスは大陸からやってくる強い寒気の影響を受け、北西の強風が吹く。また西が高気圧、東が低気圧となる「西高東低」と呼ばれる気圧配置になると北アルプスは吹雪になる。

 燕岳へは東側の中房温泉から入山するので、森林限界(合戦沢ノ頭)までは風の影響を受けにくいが、その後尾根上に建つ「燕山荘」まで徐々に風が強くなり、北西の風をもろにうける。日が当たっていてもものすごく寒い。日が当たらないとより一層寒く、雪が降ると危険を伴う恐ろしい寒さとなる。

 北西の風が強く吹き始めたら、もはやウインドシェルやレインウェアでは防げない。強風を防ぐ寒冷地仕様の高機能ウェア(筆者はパタゴニアのアルパインジャケットを愛用)の出番だ。また、冬登山における基本のレイヤリングは「風を通さない」「汗をかかない」の2点だ。暑くなったらすぐに脱ぐ、寒くなったらすぐに着るのが基本と覚えておこう。

【初冬の山のレイヤリング一例】
頭:(冷やさず蒸らさず)毛糸の帽子・目出し帽かネックウォーマー
上半身:ウールの肌着、シャツ、フリースかダウンジャケット、高機能レインウェア
下半身:ウールタイツ、厚手のパンツ、高機能レインウェア
手:毛糸の手袋の上に、降雪時には防水性厚手の手袋

風紋が風の強さを物語る11月23日の燕岳

■10月に雪が降る燕岳

 北西からの冷たい風が吹くと、やがて雪も降りだす。平地に降る雪とは大きく違い、北アルプスの雪は10月から4月までの約半年間山を覆い、夏まで残る沢山の雪が降る。そのため燕岳で10月から突然の大雪が降る可能性はゼロではない。 

2007年7月下旬の燕岳イルカ岩 
2011年11月下旬の燕岳イルカ岩

 槍ヶ岳(やりがたけ)や穂高(ほたか)の頂上付近に雪がないのは7月〜10月までの数か月間。それ以外の時期は雪や氷に覆われている。筆者が夏と初冬に燕岳山頂を目指すのは、季節ごとに素晴らしい景色が見られるからだ。山頂付近のイルカ岩が大きく表情を変えるのも楽しみの一つである。

 2011年11月下旬、冬型の気圧配置が緩んだ日に入山。中房温泉から登山開始。合戦の頭までは紅葉も楽しめたが、登るにつれ雪が現れた。燕岳の頂上付近は日中の暖かさで雪が溶けていたが、もうじき雪で閉ざされる日々がやってくる。

小屋締め間近の穏やかな燕岳。左の白い山は水晶岳