「本日のオープンを無事に、そして満サイトで迎えることができ、感動で、涙の出る思いです」

 取材陣を前に、スノーピーク地方創生コンサルタント代表取締役の村瀬亮氏は、そう自己紹介を始めた。

 9月23日(土)岩手県初となる直営のキャンプフィールド「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」が開業した。新潟県三条市の本社併設「スノーピーク ヘッドクォーターズ キャンプフィールド」に次ぐ規模で、145サイトのテントサイト数を誇る。開場前には受付を待つ車が長い列を作り、土日の予約は順調に入っているという人気ぶりだ。

 開業前日の9月22日(金)からメディアへ向けて公開された、現地の様子をお伝えしたい。

熱い語り口のスノーピーク地方創生コンサルタント代表取締役村瀬亮氏

■コアなキャンパーから初心者まで、さまざまな宿泊バリエーションが用意

 「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」が開業する場所は「県立陸前高田オートキャンプ場モビリア」として東日本大震災以前まで利用されてきたキャンプ場だ。震災以降は、約10年間にわたり仮設住宅が建てられていたため利用が停止されていたが、令和2年の仮設住宅の撤去にあわせ、スノーピークが指定管理業者としてキャンプ場をデザイン・整備を行うことで再開されることとなったのだ。

「ドッグサイト」はリードなしでOK。ワンコが安心して走り回れる広さ
山あいの別荘の佇まいの「キャビン」。仮設住宅が建てられていた時には、復興工事関係者が滞在していたが、今回リニューアルされた

 施設は開放的なフリーサイトをはじめ区画サイト、モバイルハウス住箱「-JYUBAKO-」、ドッグランサイトに、キャビン、ドッグラン付きキャビンまでもが揃う。デイキャンプや手ぶらキャンプのプランもあり、コアなキャンパーからアウトドアでの宿泊が初心者という客層まで、多様なユーザーが想定されている。今後はマルシェやイベントを開催し、地域の魅力の発信や交流の場を創出したい、とのことだ。

場内のシンボル的な存在「フリーサイト」は大型のイベント開催も検討されている

 豊富な宿泊・滞在のラインアップが用意されていて、一般の観光客や出かけたついでに立ち寄る地元の方まで、さまざまな人が気軽に集まれる、コミュニティとしての活用を見据えたフィールドだと感じた。

■広田湾を望む、絶景の展望スポット

 自然が豊かで、山海の幸に恵まれている陸前高田市。なかでも「広田湾」の牡蠣は品質が高く、豊洲市場でも高い評価を受けている。キャンプ場は湾の南西に延びる岬に広がっているので、あちこちから海の様子を見ることができるが、キャビンエリアの奥にある展望スポットからの景色は別格だ。

荒々しい外海から隔絶された地形に、気仙川が北上山地からの栄養を運びこみ、豊かな漁場がつくられる。中央から左のあたりが高田松原で、追悼祈念施設がある

 三陸の中でも珍しいとされる遠浅の穏やかな海、それを取り囲むように広がる山々、陽の光を受けた水面に浮かぶ養殖いかだに風情を感じる。ここから見渡す景色が甚大な被害に遭ったことを想像すると、悲しみ以外のなにものでもないが、自然の恵みを生かし、新たに創り出されるものもある。

海を感じる眺めの良い「区画サイト」には、電源付きと無しがある
住箱「-JYUBAKO-」からも広田湾を眺めることができる(モデルは同行した取材記者。ありがとうございます!)

 前出の村瀬氏によると、直営キャンプフィールドのパートナーシップで重要視している点は、ロケーションや土地のポテンシャルに加え、地域の自然資源、ひいては地球環境について一緒に考え合えるかどうか、というところにあるという。また、地域コミュニティの重要性にはコロナ以前より注目していて、キャンプが必ずその担い手のひとつになり得るとの信念が、地方創生の事業展開を継続していくベースだという。

展望スポットもきれいな芝生だけど…… ここにはテントは張れません!

 全国47都道府県すべてにキャンプフィールドを開設するという同社の目標の中で、岩手県においてなぜ陸前高田なのか。仮設住宅が撤去され、次のステップへ向かうタイミングにあった「県立陸前高田オートキャンプ場モビリア」が、新たな直営キャンプフィールドの適地だったということだろう。

■「開業式典」と岩手県初の「直営ストア」

 オープン初日のセレモニーには岩手県の達増拓也知事、陸前高田市の佐々木拓市長などが出席し、積雪が少なく通年キャンプがしやすいことや、初のデザインビルド方式の採用で再開を迎えられたことなど、キャンプ場への期待の言葉を述べた。閉会後、来賓用テントは地酒やワイン、焼き牡蠣などが並ぶマルシェのスペースに変わり、プレス向けに直営ストアの内覧も行われた。

テープカットにくす玉が割られ、めでたくオープン!
岩手県初の直営ストア。キャンプギアやアパレル、限定アイテムも販売されていた
マルシェのひとコマ。ぶどう栽培からジュース製造やワイン醸造を行う「神田葡萄園」は創業明治38年! キャンプついでに地元の老舗ワインが買えたら……うれしい!