「俺はミトーシアマゾウだからよう」 

 ……えぇ? 何すか、それ?

 見通し甘蔵。服部さんは自分のことを、よくこう呼んでいる。

 服部さんとの山旅は、何かが起きてもどうにもならない山中の道なき道を進んで行くし、長い日数に渡る登山では先の天気がどうなるかなんてわからない。

 その言葉は、同行するものをすごく不安な気持ちにさせるが、私はカメラマンとして山旅に同行している。服部さんの歩きが早くて大変でも、滝の高巻きが怖くても、行くしか選択肢はない。

見通し甘蔵こと、サバイバル登山家・服部文祥

 なので、私から「帰りましょう」なんて言うことはほぼない。一度だけ股擦れになって、キン●マが飛び出るんじゃないかと思うくらい痛くなった時は、「帰りましょう」と言ったことはあるが。

 私は旅の様子をできるだけしっかり伝えたいと思っている。撮影の時間を増やすためには、出発前のパッキングなど、自分のことは手早く終わらせなければいけない。撮影の合間を見て自分なりに手早くやっているつもりだが、どうしても服部さんの方が早くパッキングを済ませてしまう。パッキングだけではない。釣りに行くときも、設営の準備も早い。あっという間に先を越されてしまうのだ。

服部文祥の楽園山旅 魚野川編2

 自分とは何が違うのか。

 よく観察してみると、ほどよく雑なのだ。細かいことは気にしていない。

 あまり意識していなかったが、彼と比べてみると私は几帳面できれい好きなんだなと思わされた。泥がついたものや濡れたものは、なるべくきれいにしておきたいし、ザックにしまう順番は結構決まっている。いつの間にかどんどん増えていってしまった、自分で決めたルールに縛られていたのである。

服部文祥の楽園山旅 魚野川編3