GWが迫り、長期の残雪期登山を計画されている頃ではないだろうか。今年の南アルプスは、例年に比べて異常なほどに雪が少ない。それは冬場の塩見岳でも痛感していたが、ここまで少ないのは気がかりである。

 さて、北部の北沢峠周辺は今シーズンは林道バスが再開されるようで、小屋の営業再開の知らせも聞かれる。アクセスの良い北部は賑わいを見せそうだ。一方で、南部の東海フォレストの運営する山小屋は、残念ながら今年も営業しないようだ。GWの畑薙第一ダムから椹島までのバス運行も取り止めでは、今年も事実上の閉山状態になるのだろうか。

■冬にだけ辿られる冬季ルートの存在 

聖岳東尾根上部。夏にはハイマツが生茂る尾根も、雪が美しくラインを描く

 アルプスに限らず、冬季にしか中々登られない(もしくは登れない)ルートがあるのはご存知だろうか? 無雪期用の登山道が雪崩の巣になっている時期の迂回路として、もしくは雪がある時期だからこそ最短での登頂に適したルートだ。そして、大半が尾根道である。そのほとんどは夏になれば深い藪に覆われてしまい、物好きな藪漕ぎ愛好家ぐらいしか歩かないのではなかろうか。

 北アルプスにはメジャーな冬季ルートが幾つもあるが、南アルプスで有名なものといえば聖岳東尾根だろう。通常のGWの残雪期であれば、椹島での前後泊を含めて4泊5日で東尾根を登り、聖岳、赤石岳、荒川三山の3,000m峰を縦走するのはどうだろうか。

■聖岳東尾根は南アルプスを代表する冬季ルート 

東尾根下部のブナの森。大木の森も柔らかな緑に包まれていた

 椹島までのバスに乗るためには、椹島ロッジに必ず一泊しなければならない。前泊でのんびりと大井川の新緑を眺めながら、レストハウスの喫茶で飲むビールはたまらない。翌日に備え、飲み過ぎには注意したいところ。

 翌朝は、林道を聖岳登山口方面に戻り、東尾根末端の目印となる電柱225から取り付く。尾根に乗るまでのブナの森は、大井川周辺の森の深さを感じるには十分である。尾根までは激坂の登りだが、次第にダケカンバの森が現れ、白蓬ノ頭までは明瞭な尾根道になる。雪は年にもよるが、標高2,000m過ぎからは踏み抜きありの雪道だ。この時期は木の幹の周りの落とし穴に気をつけたい。

 1泊目は、展望台もある白蓬ノ頭付近の平らな森の中にテントを張る。夕方、展望台に出ると、赤石沢を取り囲む残雪の山並みが斜光に照らされていた。この時期はまだ寒気が出入りする影響からか、目の前に横たわる赤石岳は雲の中であった。

■雪稜と雷鳥 

ハイマツの中に寄り添う雷鳥。白黒の雄がこの後、驚きの羽ばたきを魅せた

 2日目は聖岳を経て、赤石岳山頂にある避難小屋を目指して日の出前に歩き出す。2,650mの森林限界までは、二重山稜の広々とした尾根道をヘッドライトの灯り頼みで歩く。樹間からの日の出にホッとするも、森林限界から上は雪が中々の締まり具合で緊張する。ルートはハイマツの出ている箇所とカリカリの雪稜を行き来しながら、東聖岳から奥聖岳へと登る。振り返ると両サイドが切れ落ちるような東尾根の美しいラインが浮かび上がっていた。

 その時、足元からあまり美声とは呼べない鳴き声が。ハイマツの上で雷鳥のつがいがこちらを警戒している。望遠レンズを持ってなかったので、少し前に出ると雄の雷鳥が谷へと羽ばたいた。随分飛べるんだなと、感心してしまった。驚かせて申し訳ない。

 奥聖岳から前聖岳までは、気持ちよくアイゼンを効かせながらの稜線歩き。山頂の道標が凍てついている。GWは寒気が入り、雨から吹雪になるなんてこともある。1年の中でも、この変わり目の季節の難しさを改めて思い出した。