■多言語対応の山岳ガイドに感謝!

  ロープウェイで1,600m地点の姿見駅に着くと、再び驚きが待っていた。なんと駅の出口で登山道の説明をしてくれる山岳ガイドの青年が中国人で、ロープウェイを降りるや否や英語で話しかけられたのだ。連れ合いがイタリア人だったので勘違いされたのだと思うが、予期しない場所で予期しなかった英語が飛んできて焦った。一瞬、「あれ、今どこにいるんだっけ?」という疑問が頭をよぎったが、ここは北海道なんだと思い出し、日本語で答えてみるとガイドの青年も流暢な日本語で対応してくれてホッとした。

 旭岳山頂へ行く人には入山記録の表への記入と装備のチェックなど登山ルールを細かく説明し、さらには直近の熊の出没状況や登山ルートの状態、山頂付近の天候なども丁寧に教えてくれた。外国人登山客が半数以上を占めるこの状況を見ると、中国語、英語、日本語を流暢に話せる山岳ガイドが常駐してくれることは本当にありがたいと実感する。山の知識をしっかり頭に叩き込んで、早速散策コースへ足を踏み出した。

姿見駅から3つの池を周遊する散策コースで足ならし。7月中旬でもチラホラと残雪が見える。涼しい空気と色とりどりの高山植物に足取りも軽くなっていく
夏の旭岳のシンボル的植物「チングルマ」。雨の滴が花弁に輝くかわいい姿にほっこり
緑の葉に真っ赤な雄花がひときわ鮮やかな「ハイマツ」は、私も初めて見た珍しい植物
真っ白で可憐な姿に心を奪われた「エゾイソツツジ」

 初めて目にする高山植物の美しい花々を愛でながら歩く散策コースに、イタリア人の相棒もすっかり魅了されている様子。コースの途中には、高台から見下ろす池や噴き上がる噴煙、草の間にひょっこり顔を出した可愛らしいエゾウサギなどなど、バラエティ豊かな景観が次々と現れ、飽きることなくコースを一周できる。道中すれ違った年配の中国人のご夫婦や若いカナダ人カップルも珍しい花々と景観に歓声を上げていた。

■天気に恵まれずとも「楽しかった。綺麗だった。」と大満足

 コースの終盤、姿見の池に到着してみると、お天気の回復を願っていた我々の期待に反して空は真っ暗になっていた。ここから始まる登山道にも一歩踏み込んでみたが、霧はますます濃くなり、伸ばした手の先が見えないほどになってしまった。さらに追い打ちをかけるように、突然土砂降りの雨が降り出した。これはもう、少しでも早く退散するしかない。持参してきたポンチョを慌てて着込み、急いでロープウェイ駅を目指す。

 ずぶ濡れになって駅まで辿り着き、カレーパンと名物のお山のコロッケで一息つきながら、しばらく様子を見ることにした。休憩しながら待って、雨が止んだらもう一度登山道へ入るつもりだったが、残念ながらお天気は回復せず降ったり止んだりの繰り返し。何より霧が全く晴れないのでは、もう諦める他はない。

 初めての北海道の山歩きは、その楽しさをチラッと垣間見せてくれただけで終わってしまったが、イタリア人の相棒は「楽しかった。綺麗だった。」と満足気。宿のスタッフにも「また来ます!」と誓って旭岳を後にした。

文・写真/田島麻美