夏山シーズンも終わり、標高の高い山から紅葉が下ってきている。いよいよ本格的な秋山の季節だ。

 一般に親しまれているレジャー要素の強い登山からは縁遠いが、ヒマラヤなどの高所への登山や未踏の山のピークを目指して難易度の高いルートをクライミングし、限界に挑む登山者たちがいる。そんなアルパインクライマーの世界は一体どんなものだろうか? その一人、山岳カメラマンとしても精力的に活動を続ける、クライマーの三戸呂拓也氏に語ってもらう。

 自身も含め、周りの友人・知人たちはその世界にどっぷり浸かりすぎて、少々“クセ強め”のクライマーたちが多い(笑) そんなクライマーならではの「あるある」をいくつか紹介したい。当てはまる項目がある登山者は、一歩(それ以上)足を踏み入れているのかもしれない……。

■吊り革でジャミングをしてしまう

 ジャミングとは、クライミング中に岩の割れ目に手や足を突っ込んで体を保持するテクニックである。細い隙間で決まった時の安心感は快感で、無意識に日常生活でもその快感を求めてしまう。電車やバスの吊り革に手を突っ込み、奥でグーにすると、スッポ抜けないホールドの出来上がり。どんなに電車が揺れようがへっちゃらだ。

■レンガのカチの深さが気になる

人工的な外壁だが、岩壁に見えて触れてしまう

 カチとは、指先だけが引っかかるような、薄いホールドのことを言う。建物の外壁や塀などに使用されているレンガなどの隙間。クライマーはその隙間がカチホールドにしか見えず、指がどの深さまでかかるかに思いを馳せる。レンガに指をひっかけている人は、クライマーかクライマー予備軍に違いない。

■岩角に咲く花より隣のリングボルトが気になる

まったく信頼できない状態のリングボルト「いつ? 誰が……?」

 観光地として保護され、人々を癒す散策路。小川沿いの岩角に咲く可憐な高山の花々。その傍ら、錆びついたリングボルトを目にすることがある。

 リングボルトとはロッククライミングに用いる器具の一つで、直径5cmほどのリングの付いた、岩に打ち込む支点である。近年はあまり使われておらず、国立公園などでは岩場に打ち込むことも禁止されている。よって、それらの場所で見つけるリングボルトは何十年も前に打ち込まれたものになるわけだが、クライマーはそれを見て想像を膨らます。誰が打ったのかな……。強度はどれくらいかな……。あそこに打ってあるということは、このラインを登るのかな……。などなど。“花より団子”ならぬ、花よりリングボルト状態。

■一人暮らしクライマーの苦悩

登山中より、移動の方が核心部だったりもする……

 クライマーは仕事も外仕事が多く、休日は山に出かけて留守。一人者のクライマーが困るのは荷物の受け取りだ。遠方での仕事道具は宅配便で自宅に送りたいが、受け取れるタイミングがない。帰宅した翌日も道具を使う時は、仕方なく80Lほどの大きなリュックやバッグを持って公共交通機関を使う。そんな時、気になるのは子どもの視線。

 「ママ! 見て見て!!」配達業の働く大人と思われているのか、はたまた重い物を背負って修行をしていると思われているのか……。その目は好奇心に溢れている。しかし、ママは小さな声で言う。「見ちゃいけません」