秋が来た! 四季を通じて山を楽しむ僕にとって、秋はトレランの季節。気候、体の状態、すべての準備が整った秋こそ、縦横無尽に山を駆け巡ることができるのだ!

■山行スタイルのひとつとしてのトレラン

紅葉の中、落ち葉の絨毯を踏みしめながらトレイルをいく

 トレイルランニング(トレラン)とはなんなのか? 語源はともかく、いまや一言にトレランと言ってもかなり細分化されてきており、昔のイメージとはだいぶ変わっているかもしれない。トレラン=レースと考えている人も少なくないが、距離ばかり長くしてコースのほとんどが林道や、スキー場のゲレンデを上り下りするだけというレースも少なくない。
 さらにトレランのレースですら細分化され、それぞれに団体や協会が乱立している現状だ。そんな中で、自分が考えているトレランとは、「山々を軽快に駆け抜ける、山行スタイルのひとつ」である。

 つまり、トレランは登山のひとつであり、トレランのレースはトレーニングの成果を試す一環でしかない。本来の目的は山にあるので、鍛えた身体、手に入れた能力をいかに山の中で実践して力を発揮するかが重要だ。

■ベストシーズンは秋!

身軽な装備になると、ガレ場も難易度が下がる

 山を走るのがトレラン、といっても実際には誰もがいつでも簡単に走れるわけではない。闇雲に走るのは危険だし、怪我もする。そもそも、普段から山を走っていない人はまったく走ることができないだろう。

 四季のある日本で、現実的に雪の積もる雪国では冬に山を走れない。また、雪の降らない南国はどうかというと、暑すぎて夏などとても走れない……。

 トレランは、シーズンスポーツだ。

 シーズンスポーツにはいろいろな楽しみと共に、デメリットもある。トレランにおいてのそれは、オフシーズンに身体がなまってしまい、せっかく作った身体がリセットされてしまうことだ。そのため、雪がなくなったからと言ってすぐにどこでも走り回れるわけでもない。毎年、身体作りを一からやり直さなければならないのだ。

 僕の場合、(冬はプロスキーヤーとしての活動があるので)6月にスキーシーズンを終えて、地道な走り込みと、緩やかな山行を重ねてから、思い切り走れるようになるまで、2〜3ヶ月を要する。つまり、9月、10月からが僕にとってのトレランシーズンになるわけだ。

 このタイミングで山を走るというのは、意外と都合が良い。暑さのピークは越え、山では肌寒いくらいに涼しくなる。運動量の多いトレランにとっては、少し寒いくらいがちょうど良いのだ。さらに初夏から8月までは、一般的なハイキング・登山のハイシーズン。週末の山はどこも人であふれ、走るどころではない。高山植物の花の時期が終わったあと、山の賑わいもいったん落ち着く時期がある。9月の連休以降は紅葉シーズンとなり人出は増えるが、紅葉見頃のタイミングをずらした山を選べばストレスなく走ることができる。

■楽しみかたは人それぞれ! 思い思いのトレランを

登山技術次第ではトレランスタイルで行ける山も広がる

 標高数百メートルの里山から、数千メートルの高山まで、日本には星の数ほど山がある。秋の深まりと共に走る対象となる山は、雪に追われるように低い山へと移っていく。けれどトレランの魅力は一つの山のピークハントというより、山々を駆け抜ける爽快感にある。

 一般的な登山者は見向きもしないような各地の里山が、じつはトレランの好フィールドだったりもするので、山の容姿や高い低いは関係ない。

 何日もかけて縦走登山するようなロングルートを、1日で駆け抜けてしまうトレラン山行も面白い。のんびり歩くだけが登山ではない。かといって走ることだけに偏らず、いろいろなスピードと山行スタイルで経験を積んでいけば、山で必要となる様々な能力も自然と身についてくる。

 山での総合力を伸ばすためにも、ぜひトレランを取り入れてみてほしい。まだ走り始めていない人は、来年の秋に向けて。すでに走り込んで身体ができている人は、今こそが自由で魅力あふれる山の世界を堪能できるときだ。