筆者が渓流釣りと出合ったのは5年前、友人の誘いで「テンカラ」釣りを始めた。テンカラは、竿、糸(ライン)、毛バリの3つだけで成り立つ日本古来の釣法で、竿にラインを取り付け、ラインの先端側にエサに見立てた毛バリをつけただけのシンプルな釣りだ。

 日本発祥のテンカラは、アメリカで「シンプルフライフィッシング」という名で注目を集めている。そしてアメリカでも「テンカラ」という愛称で親しまれている。ちなみに、日本古来の釣法では水面、または水面直下に毛バリを流して釣るが、アメリカのフライフィッシングでよく使われる水面に浮く「ドライフライ」を使ってのテンカラ釣りも人気だ。

 テンカラ釣りは先述のとおり仕掛けはシンプルだが、釣り自体は奥が深く、警戒心の強い渓流魚との駆け引きを一度味わったら虜になってしまうほどだ。

 筆者は現在、それなりの釣果をあげられるようになってきたが、デビューしたての頃は全く釣れなかった。今回はテンカラ歴5年目となる筆者が、始めたばかりの頃の失敗談を紹介したい。これから挑戦したいと考えている人の参考になればと思う。 

■キャスティング練習なしで上流域へ行くのはNG

上流域は木々が生い茂り、障害物が多い

 筆者がテンカラデビューをしたのは、キャンプ場沿いに流れる川だった。渓流の上流域と呼ばれる場所で、川幅は細くて狭い。両岸は木々が生い茂るような場所だ。

 テンカラは竿先を上に向けた状態で竿を前後に振り、しなりと反動を使って軽い毛バリを狙ったところに飛ばす。この一連の動作を「キャスティング」と呼ぶが、このキャスティングができないと、障害物の多い上流域では狙ったポイントに毛バリを届けることができない。

 キャスティング練習をせずに上流域に出かけた筆者は、竿を振る度に毛バリを木々に引っ掛けてばかりで釣りにならなかった。

 釣りに出かける前段階で、障害物の少ない開けた川でキャスティング練習をしておこう。狙ったところにキャストできるようになると楽しくなってくる。

■魚が走る!  大漁の予感!  は間違いだった 

魚に気づかれないように中腰姿勢で次のポイントを目指す

 テンカラ釣りは、魚のいそうなポイントを釣りながら川の上流へと移動していくのが基本のスタイルだ。川の上流へ移動しながら釣りをしていると、魚がピューッと泳いで遠ざかっていく姿を確認できた。「これは釣れそうだ!」と心躍る出来事だったが、さっぱり釣れなかった。

 こんなにたくさん魚がいるのに、なぜ釣れないのか?  その時は分からなかったが、渓流魚は釣り人(筆者)の存在に気付いて逃げていく「逃走中」の姿だった。

 魚が勢いよく逃げていく様を釣り人は「魚が走る」と表現するが、人の気配に気づき、危険を察知した魚は、高い確率で釣ることができない。

 これはテンカラ釣りに限ったことではないが、渓流での釣りは毛バリもエサも、ポイントに投げる前から魚との駆け引きが始まっているのだ。いかに気配を消し、物音を立てず、気付かれずにアプローチできるかが釣果をあげるコツだと実感している。こうした渓流魚との駆け引きがテンカラ釣りの面白いところだ。

■初めてのラッキーホームラン!

筆者が初めてテンカラで釣り上げたイワナ。慌てて取り込んだため砂がたくさんついてしまったが、このあと元気に川へ戻っていった

 テンカラ釣りを始めた頃はアタリ(魚が毛バリをくわえること)が分からず、いつの間にか魚が毛バリに食いついていたことがある。

 テンカラで釣れた最初の1匹は、釣れたことに全く気づかずに竿を振り上げたら小さなイワナがポーンと水面から飛び出てきた。まるで適当に振ったバットにボールが当たってホームランになったような、そんな気分だった。

 毛バリを投げ、水面、水面直下、水面下を流し、毛バリをコントロールしながら魚を誘うのだが、山岳渓流は木々が覆い被さっていて薄暗い場所が多いことに加え、水面は流れが複雑で波や白泡などで水中の様子や水面直下の毛バリは見えにくい。視認性の高いラインを使い、ラインの位置や動きで魚の反応を予測しながら釣ることで釣果を上げやすくなったが、そのコツが分かるまでには慣れが必要だ。