■ 武庫川駅から東鳴尾駅・洲先駅へ

 武庫川線の走る西宮市は、大阪市と神戸市の間に位置する。いわゆる阪神地区である。阪神地区といえば、関西でも屈指の高級住宅街だ。

 ただ、武庫川沿線である西宮市の南東部は、戦前・戦中にかけて軍需工場が建てられていたように、住宅地というよりも工業地帯だった。いまは工場の数も少なくなり、マンションや戸建て住宅も見られるが、昭和の面影を残すアパートも点在。工場に勤める人の住居だったのだろうか。

 また、レトロな雰囲気の商店街もある。ただ、商店街はシャッター通りとなっていて、開いている店もチラホラではある。

 武庫川駅の次は東鳴尾駅。

東鳴尾駅のホーム

 ホームに屋根とベンチだけという簡素な造りで、ICカード専用簡易改札機・チャージ機以外の改札も券売機もない。

 東鳴尾駅から県道341号線(臨港線)の高架をくぐれば洲先駅。

洲先駅のホーム

 両駅の駅間はわずか400mで、阪神電鉄の全線で最短だ。ただ、線路がカーブしていることと県道の高架で遮られることから、どちらのホームからも次の駅を見ることはできない。

 なお、東鳴尾・洲先間を現金で乗降する場合、乗車して運転士から乗車券を購入する必要がある。阪神電鉄最短の両駅区間を乗り降りする乗客もまれなのだろう。

■マンモス団地内に展示された鉄道オブジェ

 終着駅が武庫川団地前駅だ。駅前からは、宙にそびえるという表現が的確すぎる団地の様子がうかがえる。

 戦前は川西航空機、戦後は新明和工業の工場があった跡地に、建築されたのが武庫川団地だ。着工は1976年で入居が開始されたのは3年後。32棟のすべてが12階建て以上で、5000戸を超すマンモス団地である。

 団地の入る前に武庫川団地前駅に寄る。

武庫川団地前駅の駅舎

 すると、改札の前に駅の周辺MAPが掲示されてあった。

武庫川団地前駅の改札前に掲示してある周辺MAP

 それによると、団地内には、いろいろな見どころがあるらしい。ならば、その全部を見てやろう、と足を進める。

 「ムコダンモール」というショッピングモールを抜けるとトーテムポールと白雪姫と小人の像があり、その前には「西宮市立高須東小学校閉校並びに高須小学校の誕生」と記された石碑が。

高須東小学校の卒業生によるトーテムポールと人形

 ムコダンモールの敷地が元高須東小学校だったらしい。

 トーテムポールから少し行くと、「高須東小学校門跡」と書かれた白い壁。

高須東小学校の校門跡

 壁の向こうが武庫川団地で、電車の車輪が展示されている。

武庫川団地の様子

 2022年まで運行されていた阪神電鉄5022号車(5001形)、通称「青胴車」の車輪だという。

団地の東口付近に展示された青胴車の車輪

 団地内には、踏切や改札のオブジェもあると示されている。だが、ここで大きな問題が起きる。青胴車の車輪の横に「武庫川団地案内MAP」が設置されているのだが、横に「関係者以外立ち入り禁止」のプレートが!

 思わぬところで足止めを食らってしまった。

■集会所としても利用されている「赤胴車」

 ただ7000系車両、通称「赤胴車」が展示されているコミュニティスペースは、入場ができそうなので足を延ばす。

 阪神電車のシンボル的なカラーの車両は、集会所としても利用されている。

 前回、登場してもらった西宮の知人は、親戚や友人が武庫川団地に住んでいるらしい。つまり、関係者である。その知人に聞くところによれば、敷地内にはアートオブジェや屋外ステージも設けられ、商業施設もあるという。居住環境はよさそうだ。

 取材前に「何もない」と忠告された武庫川沿線だが、わずか1.7kmの間にも前回と今回で紹介した見どころは存在する。武庫川団地から、さらに足を延ばせば鳴尾浜臨海公園や阪神鳴尾浜球場もある。

 言い方を変えれば、「何もない」場所など日本国中どこをさがしても存在しないのではないか? そんな気がした、今回の散策であった。