今年は記録的暖冬と言われるが、それでも雪山に登りたい私は雪を求めて豪雪地帯の新潟へ遠征することにした。この日(2024年2月中旬)は、日本百名山の巻機山(まきはたやま・標高1,967m)を選んだ。谷川岳や越後三山、尾瀬など360度を見渡せる山であり、巻機山の優しい山容が大好きなところである。「今日の予報天気図では雲海になりそう」と期待に胸を膨らませていた。

■自分の感覚が研ぎ澄まされる

夜景を望みながらヘッドライトを頼りに登る

 今回の目的は、ニセ巻機山から日の出の景色を望むこと。そのためにナイトハイクをする。この行程は二度目なのでいくらか気持ちは落ち着いていた。ナイトハイクは暗いので地形が読めないなどリスクがあるため、“自分ルール”として登ったことのある山に限定している。

 巻機山は夏道ではなく樹林帯を直登していくので急登であり、標高差も1,500mを超えるためかなり登りごたえがある。昨年はソロで他の登山者もなく貸切状態だったが、今年は日曜日だからか前日からのテント泊者、ナイトハイクの登山者、バックカントリーのパーティーなど多くの人が来ており、深夜2時にもかかわらず駐車場もすでに車があふれていた。

 スタートすると2月なのに生暖かい風が吹いてきて違和感があった。山の中に入る瞬間は多少は恐怖心があるものの、スタートしてしまえば登ることの集中力が高まり、周りの景色など気にならずゾーン状態に入るのだ。

 3時間半ほど暗闇の中を集中して登っていく。結構時間のかかるナイトハイクだ。樹林帯を超えてもまだ長い尾根が待っている。ニセ巻機山のシルエットが見えるが、なかなか辿り着かないのだ。空が白みはじめると、逸る気持ちを抑えながら一歩一歩進んでいく。急ぎたくても息が上がってしまい急げないのだが。

■“今”が最高の瞬間

“天女のドレス”と名付けた一枚

 マジックアワーの空が始まる。到着してからすぐにダウンジャケットやハードシェルを着込み撮影の準備をする。今日の中で一番大事な瞬間だ。「“今”って何秒だと思う?」と、月9のドラマでセリフがあったが、私は美しい朝焼けの瞬間が思い浮かんだ。世界がとても鮮やかに彩られるわずかな時間がとても尊いと感じるのだ。

 東の空はオレンジ色、西の空はピンク色にだんだんと色が濃くなっていく様に見惚れ、嘆美する。ニセ巻機山から望む大源太山と万太郎山の構図が好きで毎回撮ってしまう。今回はビーナスベルトに染まる空と滝雲が流れる稜線が美しく神々しかった。朝焼けの色が青空に溶けて終わってしまうまでの時間は一体どのくらいなんだろう……。