「同じ場所ばかり滑っていると飽きないの」と、言われることがあるかもしれない。滑っている側からすれば、場所は同じでも条件は毎日変わるから、飽きる理由がないのだ。滑るほどにスキー場の状況が手に取るようにわかり、精度の高い積雪予測や溜まっている場所の目星がつけられるホームマウンテン。ひとつのスキー場やBCエリアを知れば、その場所の魅力に気づくのは間違いない。ここからはホームマウンテンにまつわる様々な話をお届けしよう。

 ホームマウンテンを紹介してくれるのは、主に石川・富山・岐阜エリアの滑り手が集まり、それぞれの地元の面白い斜面や思い入れのある斜面へ滑りに行くユニット「White Vibes」。どこも白馬や信越といった名高いスキーエリアからやや離れているが、そこを滑り続けているローカルだからこそ語れる、雪やロケーション、スキー場やバックカントリーの魅力がある。そこでこの地域をホームマウンテンにする名手に、それぞれの特徴を教えてもらった。

■富山・立山山麓エリアと佐伯岩雄

ピラミダルな山容の鍬崎山ピーク

 登山やBCスキーの専門店チロルのオーナー佐伯岩雄が、BCエリアを軸に紹介。写真は鍬崎山(くわさきやま)セッションの模様だ。

佐伯岩雄(Iwao Saeki)
中学、高校と競技スキーでインターハイに出場。その後、競技カヌーに没頭するも、国体入賞を機に登山界へ復帰。富山市内で登山とBCスキーのショップ「チロル」を運営しながら、山岳ガイドとしても活躍する

●富山市周辺のバックカントリー事情

夜開け前からハイク開始。あわすのスキー場から歩き始める
鍬崎山の標高は2,090m。1月とあって、かなりいい雪が降り積もっていた

  富山市の立山山麓スキー場エリアは古くからシーズンを通して登山者や山スキー愛好家に親しまれたフィールドがある。近年は厳冬期でもパウダーを求めてスキーやスノーボードを楽しむためにこの山域に足を踏み入れる人が増えている。パウダーのベストシーズンはだいたい1月中旬から3月上旬頃。冬型の気圧配置が決まると、ドカ雪になることがあるのでとくに気をつけたい。

稜線を歩く頃には日が上り明るくなっていた

 日本海から直線で30km、標高2,090mの独立峰、鍬崎山がそびえる特殊な環境のため、この辺りは一晩で1mを超える積雪になることもある。平坦な場所では下りでも激ラッセルとなり、厳しい状況に追い込まれる可能性がある。

ドロップポイントからは富山平野と富山湾が一望できる

 日帰りで楽しむなら大品山、瀬戸蔵山周辺でも十分楽しめる。上級者がパウダーを楽しむなら鍬崎山1,756mのピークからがいい。その上は風にさらされて雪は硬くなり冬山登山装備と技術が必要だ。厳冬期にピークを目指す場合はテントを使用し1泊したほうが良い。苦労はするが条件が整えば素晴らしパウダーに出会える。

チロルのオーナー佐伯岩雄の滑りは常に直線的で速い

 鍬崎山へのルートは基本的に夏の登山道沿いとなる。どの谷筋も下部は狭く滝が多くあるため、下まで降りることはできない。

 大品山、瀬戸蔵山は上部に開けた良い斜面があるが、麓まで下りるにはルートを見極める技術と判断が必要になる。

ガイド資格を有する佐伯が難しい雪庇を崩してルートを作る

 これらの山域への入山は麓の「あわすのスキー場」がベースとなる。ただ、リフトの営業を待ってからの入山では遅くなるため、6時前に出発することになる。なお、ゲレンデを登る際は山に向かって右側の端を歩かなくてはいけない。左側は非圧雪ゾーンとなっており、登りのトレースをつけることは厳禁である。スキー場の駐車場を利用することになるので、後から来た人の迷惑にならないよう、奥からきれいに駐車するのを忘れないで欲しい。