一般に親しまれているレジャー要素の強い登山からは縁遠いが、ヒマラヤなどの高所への登山や未踏の山のピークを目指して難易度の高いルートをクライミングし、限界に挑む登山者たちがいます。そんなアルパインクライマーの世界は一体どんなものでしょうか?

 山岳カメラマンとしても精力的に活動を続ける、クライマーの三戸呂拓也氏に中央アジア、キルギスとタジキスタンの国境に聳える「レーニン峰」登山の様子を語ってもらいました。馴染みのない中央アジア、さらに標高7,000mを超える高所での登山の様子、(ノーマル)ルートの概要や登山装備、必要な技術などはいかに?

 「2023年夏、私は単身キルギスに渡りレーニン峰に登った。レーニン峰は国際キャンプの名残があり、様々な国から多くの登山者が集まる人気の山である。特別な能力は不要だが、標高は7,134m。登頂には最低限の体力や雪上技術、幕営生活能力、そして晴天のタイミングを必要とする」:三戸呂拓也氏談

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■ノーマルルートの概要

タクティクス表。多少の変更はあったが、ほぼこの通りに進んだ。日数を費やしても、アタック前はベースキャンプでシャワーに入ってリラックスしたかった

●ルート詳細

 各キャンプの標高は、“ベースキャンプ”BC(3,700m)、“上部キャンプ”C1(4,400m)、C2(5,300m)、C3(6,100m)である。ただしエージェントによってキャンプの位置が微妙に異なる。私の利用したエージェントは、全てのキャンプで最も上部に陣地があった。

・BCまでは車でアクセスすることができる。私はオシュの空港に迎えが来てくれ、到着日はオシュの指定されたホテルに滞在。翌朝に迎えが来て、買い物を済ませた後BCに直行する。オシュ~BC間は6時間ほどである。

・BC~C1間は砂礫の道を歩き、最終的に氷河の上に乗る。基本的に夏道であり、馬も行き来する。しかし午後は川が増水し渡渉ができないことがあり、その場合は迂回路を余計に歩かなければならない。またシーズン中に大雪が降り、C1に向かえない日が数日あるらしい。

・C1~C2間は、出発から氷河歩きとなる。このルートで唯一クレバス帯を越えるパートであるため、氷の硬い早朝に出発することが望ましい。クレバス帯は各社のガイドやポーターが頻繁に点検に入り、ルートが作り変えられている。梯子やロープは固定されているが、アンザイレンしていないと滑落の可能性がある場所も多かった。またC2も雪上はクレバス上の可能性があるため、地面が見えている部分に幕営するのが望ましい。

・C2~C3間は、稜線に出てレーニンの肩まで上がる。最初と最後に長い登りがあり、標高も手伝って足が重くなる。滑落のリスクは少ないが、風を防ぐ場所がなくなるため、荒天時の行動には注意が必要である。

・C3~山頂間。一度コルまで大きく下り、急な登り返し。6,800m付近に小ピークへの急登があり、ロープが張ってある。その先がプラトーになっており、奥に山頂部分が見えてくる。しかし山頂はかなり奥に隠れており、いくつもの偽ピークを越える。山頂にはルンダル(チベット仏教の旗)が張ってあり、レーニン像が置かれている。行動時間が長いため、出発は未明になる。気温はマイナス15℃ほどだろうが、日の出前に風が強いと凍傷の危険を感じる寒さであった。固定ロープを越えたあたりで陽が当たり、その後は風がなければ暑いくらいになる。降雪後は脛ほどのラッセルが山頂まで続くが、雪崩の危険がある場所はない。だが風は勿論、視界不良時にもルートが不明瞭になることがある。天候が安定しなければ、登頂には大きな危険が伴うだろう。

C2の手前。クライマーが行列を成す

 自分が最後に7,000mを超えてから、4年が経っていた。レーニンのノーマルルートは、ほぼ1,000mずつ標高が上がる。標高に応じて、自分の体の変化を主観的に、時に客観的に確認しようと考えた。結果として、体調管理は順調に進み、高度障害によって行動が滞ることはなかった。登攀要素が少なかったこともあるが、7,000mに立つまでの高度順化のリズムは思い出すことができた。