北岳(きただけ)は、日本百名山の1つで山梨県南アルプス市に位置する。標高3,193mを誇り、日本で2番目に高い山だ。美しい景観と豊かな自然環境で、多くの登山者から愛されている。

 山頂への登山ルートはいくつかあるが、最も一般的なのは広河原(ひろがわら)からのアプローチである。山頂や周辺の稜線からは富士山をはじめ、甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)、仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ)など、南アルプスの名峰が一望できる。9月中旬から始まる紅葉シーズンは、山々が鮮やかな色に染まり、美しさを一層感じられるだろう。

 今回はある年の10月初旬、紅葉が真っ盛りの時期に登ったレポートを紹介する。

■紅葉の中を白根御池小屋を経て、北岳へ

 広河原からのコースタイムは6時間以上、標高差は1,600m以上とかなり登り応えがあるが、小屋に泊まり1泊2日で登ることも可能だ。筆者は有給休暇がとれたこともあり、1日目は白根御池小屋で1泊、2日目は北岳山荘に泊まり、3日目に下山する2泊3日のテント泊を計画。ややゆったりとしたペースで楽しむことにした。

 登山口のある広河原へは、6月下旬から11月上旬までマイカー規制が行われているため、車で直接行くことはできない。中部横断自動車道・白根ICから30分ほどの場所にある南アルプス市芦安(あしやす)に駐車し、バスやタクシーで移動する必要がある。芦安には約600台が駐車できる無料駐車場があるが、お盆や連休のピーク時には満車になることもあるようだ。バスは芦安から広河原までは1日4〜7本運行している。

 広河原でバスを降りた後は、北沢峠(きたざわとうげ)方面へと川沿いを歩き、左手に見える大きな吊り橋を渡った先に登山口が現れる。

現在は通行止めの大樺沢下部ルート

 当時は広河原から沢沿いを登り、二俣を通って白根御池小屋へ向かったが、現在は広河原から二俣へ行く大樺沢下部ルート上への仮設橋の設置が難しく、通行止めとなっている。そのため登山口から20分ほどで到着する分岐を右手に進み、白根御池小屋へ直接向かうルートが推奨されている。

 当日は広河原を12時頃出発し、北白根御池小屋へは、広河原から3時間ほどで到着。平日だったため、テント場は閑散としていた。その日は曇り空だったが、テント場からも赤や黄色に色づいた木々が見え、美しい景色が広がっていた。

池が目の前にある白根御池小屋テント場

 翌朝目覚めると、青空に映える紅葉が見事だった。振り返れば、北岳に登ったこの年は紅葉の当たり年だったように思う。2日目は、白根御池小屋から北岳へ向かう最短ルートの草すべりを登り、北岳肩の小屋を経て、北岳、北岳山荘を目指す。

 テント場を後にして登山口から草すべりルートを見上げると、太陽の光が草地を照らしている。黄金色に輝いており、息を呑むほど美しかった。しかし、草すべりは草地の急斜面を一気に登るルートで、滑りやすい箇所もあるため注意が必要だ。しばらく登り続けると、ダケカンバの林が現れ、その中をつづら折りに進んでいく。この林を抜けると視界が一気に広がり、稜線が近づいてきているのを実感した。

黄金色に輝く草すべりルート
ダケカンバの林を抜けると稜線に近づく

 草すべりルートの終点には小太郎尾根の分岐点がある。この辺りから景観が一変し、周囲には荒々しい岩肌が目立つようになる。この分岐から北岳肩の小屋までは30分ほど、さらに45分ほどガレ場を登り続けると北岳山頂に到達する。朝は晴れていたが、山頂到着時はあいにく曇り空となり、展望はあまり望めなかった。

小太郎尾根分岐から稜線歩きが続く

 山頂付近には鎖場があり、登山道も狭い箇所もあるため、注意が必要である。慎重に進み、14時頃ようやく北岳山荘に到着した。山荘近くには棚田状の平らな場所があり、山荘のすぐ横のテント場にテントを張ることにした。テント場からは富士山を真正面に望むことができ、絶好のロケーションであった。少し雲が切れたタイミングで、周囲を散策して過ごした。

北岳の鎖場
北岳と北岳山荘