夏の盛りだった8月の半ば、宮城の実家へ帰省してきた。タイミングよく南東北の晴れ予報と重なったので、道すがら東北自動車道を降り、福島の一切経山(いっさいきょうざん)に登ることにしていた。

 一般的なお盆休みからちょっとずらしたこともあってか、道中は渋滞もなく、快適そのもの。とはいえ、さすがは人気の山だけあり、登山口となる浄土平駐車場はかなりの混雑具合。ここは登山者だけでなく、観光やツーリングで訪れる人が多いことを忘れていた。

 盆を過ぎれば、高い山は早々に秋の気配が漂う。その象徴のひとつがトンボだろう。登山を始めたころは、せっかくの夏山で無数のトンボが飛び交う光景に辟易したものだけれど、いまはありがたい存在だと思うようになった。トンボが増えると、ブヨやアブといった虫がぐんと減るのだ。ブヨにやられがちな体質のぼくにとって、これは非常に助かる。

■周囲の日本百名山にひけをとらない、東北を代表する絶景名山

雄大な風景を背に、一切経山の頂を目指す。眼下には鎌沼と酸ヶ平避難小屋がよく見える

 一切経山は、西吾妻山の東に位置する活火山で、安達太良山のほぼ真北にある。標高は1,949mと低くはないものの、登山口となる浄土平の標高が1,600mくらいだから、じつは登りやすい山として知られた名山だ。

 山頂までの地形は比較的なだらかだし、登山道もしっかり整備されている。湿原の多い山だから、部分的に木道が設置されているのも人気の秘密。そして、万が一のときに利用できる避難小屋が酸ヶ平にある。

 浄土平ビジターセンターの裏手から入山し、季節の高山植物を愛でながら歩けばあっという間に鎌沼との分岐に着く。そこからは火山らしい岩がちの登山道が続き、山頂まで片道90分ほどのコースタイムで到着。初心者でも挑戦しやすく、家族登山を楽しむ姿も多く見られた。

 そんな登りやすさには見合わないくらいの絶景がたくさんあり、とにかく眺めの良さには舌を巻く。東北を代表する絶景の山であることに、異論を唱える人は少ないだろう。

 ただし、活火山だということは留意する必要がある。浄土平ビジターセンターのホームページで最新の登山道の状況や気象庁の火山活動情報は必ずチェックしておきたい。さらに、登山をスタートする前にはビジターセンターに立ち寄り、最新の状況を確かめておこう。