焼石岳(やけいしだけ・標高1,547m)は、岩手と秋田の県南にまたがる焼石連峰の主峰である。花の百名山にも選定されており、東北屈指の花の山として人気を集めている。初夏に焼石沼付近でミヤマキンポウゲの花畑が見られるということで、その光景を目的に訪れた焼石岳でのフラワートレッキングの様子をレポートする。花に包まれる焼石岳の美しさをとくとご覧いただきたい。

■登り始めに発見したギンリョウソウとサワハコベ

木陰に咲くギンリョウソウ(撮影:川村亨)

 筆者が訪れたのは、2024年6月下旬。梅雨時で天候が安定しない時期であるものの、登山日の早朝は晴れていた。今回利用したコースは、秋田県の東成瀬(ひがしなるせ)村側にある登山口から登るコースである。登山者が比較的少ない穴場のコースで、序盤の登りが緩やかなのが特徴だ。

 午前7時頃、登山口のある3合目から登り始めると、木陰にギンリョウソウ(銀竜草)が咲いているのを発見した。一説によると、白い花が下向きに咲く姿が竜の頭に見えることからその名がついたとされている。薄暗い場所にひっそりと咲く姿が少し不気味に見える。

沢沿いに咲くサワハコベ(撮影:川村亨)

 緩やかな起伏のある登山道を歩き 、沢のせせらぎが聞こえる場所に出ると、足元にサワハコベが咲いていた。白い花びらを凛と咲かせ、小さいながらも存在感を放っていた。

■沢沿いに咲くズダヤクシュ

鐘型の花をつけるズダヤクシュ(撮影:川村亨)

 歩き始めて約1時間半が経過した頃、沢を渡る徒渉ポイントに出た。水面上に出ている岩の上を伝い、足を滑らせないように沢を渡る。その後、沢沿いの登山道を歩いていると、豆粒ほどに小さく白いものが目に留まった。近づいてみると、いくつもの鐘型の花をつけたズダヤクシュだった。よくよく周りを見渡してみれば、あちこちにズダヤクシュが咲いてた。

■焼石沼で咲き乱れるミヤマキンポウゲ

焼石沼付近に咲くミヤマキンポウゲの花畑(撮影:川村亨)

 歩き始めて約3時間で、焼石沼への分岐に到着する。筆者が訪れた時はあたり一面が黄色の花であふれており、ミヤマキンポウゲのお花畑になっていた。開けた草原のなか、いくつものミヤマキンポウゲが咲き乱れ、風に揺らめく光景はまさに楽園のようであった。さらに、ミヤマキンポウゲに混じって紫色のハクサンチドリや白色のシロバナノヘビイチゴなどの花々も咲いている。

■焼石岳山頂部を彩るミネウスユキソウとキバナノコマノツメ

キバナノコマノツメ(撮影:川村亨)

 うっそうと草木が生い茂る登山道を抜けると、山頂部の岩場に出る。ゴツゴツした岩場では、体のバランスを手で取りながら進んでいく。ふと目を向けた岩の下にキバナノコマノツメが咲いていた。花びらの開き具合や筋模様がスミレとよく似ていると思っていたが、後で調べるとスミレ科の高山植物であることがわかった。

焼石岳山頂(撮影:川村亨)

 登山道を登りきり、山頂に着いたのは11時半頃である。5組程度の登山客が座って休憩をとっている。山頂から岩手県側は曇っていたが、秋田県側は周囲の山並みがよく見えた。

焼石岳山頂部に咲くミネウスユキソウ(撮影:川村亨)

 景色を眺めながら山頂を歩いていると、ミネウスユキソウが咲いているのを発見した。名前に雪が入っているように、うっすら雪が積もっているかのように白みがかっている。