稜線から望む大展望──!

 一般的な評価もそうだと思うが、筆者にとって「大菩薩嶺」登山のイメージはなんと言ってもこの一言に尽きるのだ。

 首都圏近郊にある百名山の一座で、日帰り登山ができる2,000m級として人気の山。中里介山の小説『大菩薩峠』で広く世間に知られ、昭和の登山ブームでは東京発夜行日帰りの山として登山者が列をなしたという。

 今では上日川峠に通じる車道がよりよく整備され、公共交通機関やマイカーで標高1,600m地点まで上ることができる。アクセス向上もあり、人気は衰えることを知らない。

 だがやはり、今も昔も多くの人を惹きつけてやまない所以は、大菩薩峠から雷岩に続く草尾根から望む雄大な眺めといって間違いないだろう。

 その美景に何度かこの山を訪れたことのある筆者が、とりわけ感激したのは今からちょうど1年前の3月中旬に登ったときのことである。本稿では、中級者向けのそのコースについてお伝えしたい。

■丸川峠から大菩薩嶺を目指す周回ルート

丸川峠入口から上日川峠を目指す(撮影:伊大知崇之)

 3月、この山に登ろうと思ったらアクセスには注意を要する。一般的な登山口となる上日川峠へ通じる県道は4月中旬まで冬期閉鎖となり、バスも通っていない。そのため筆者を入れた計3人は丸川峠入口の駐車場に車を停め、スタート地点とした。

 ここからの周回コースは、一般的には丸川峠を経て山頂を踏み、大菩薩峠、上日川峠へと下り、丸川峠入口に戻る人が多いようだが、筆者たちは逆回りに挑んだ。

国土地理院地図を引用し筆者作成
シーズンを前に静かに佇むロッヂ長兵衛(撮影:伊大知崇之)

 まず最初の通過点、上日川峠へ出るまでがそれなりに距離があり、なかなかきつく感じた。

 上日川峠ではシーズン中に登山客で賑わうロッヂ長兵衛が静かな佇まいを見せ、春を待ち侘びていた。空っぽの駐車場から、はるかに望む南アルプスの山々は早春の登山者を見守ってくれているようだ。

上日川峠から望む南アルプスの山々(撮影:伊大知崇之)

 大菩薩峠に向かう。ここからしばらくは上日川峠を起点とするシーズン中最もポピュラーな周回コースと同じ道をたどる。冬枯れの樹林帯では、足元に広がる笹原いっぱいに降り注ぐ気持ちの良い日差しの中を歩いた。

冬枯れの樹林帯に陽の光は気持ちよく注ぐ(撮影:伊大知崇之)

 福ちゃん荘を過ぎ、勝縁荘のあたりからところどころ登山道に残る凍結した雪が行く手を阻むようになった。しばらくは雪のないところを踏み、騙しだまし歩いていたが程なく降参し、軽アイゼンを装着。大菩薩峠の介山荘手前の坂道まで登ると、登山道は完全にアイスバーンに覆われたので、どのみち必要な判断であった。

介山荘の手前の坂道は完全にアイスバーン(撮影:伊大知崇之)