12月が近づくにつれ寒さが増してきた。本州にある湖の多くが禁漁となってしまったが、箱根にある芦ノ湖では12月中旬までトラウトフィッシングが楽しめる。今回はその芦ノ湖に大型トラウトを求め出掛けてきたので、その模様をレポートする。

 ほかにも、これから芦ノ湖の釣りにチャレンジしたいと考えているアングラーに向けて、芦ノ湖の釣りの魅力、晩秋の釣りの特徴、ビックトラウトに出会うためのヒントをまとめたので参考にしていただけたら幸いである。

■芦ノ湖は野性化したトラウトが泳ぐ貴重なフィールド

芦ノ湖の西岸から望む箱根駒ケ岳(こまがたけ)と二子山(ふたごやま)

 現在、芦ノ湖にはルアー&フライフィッシングの対象魚種として、レインボートラウト(ニジマス)、ブラウントラウト、イワナ、サクラマス、サツキマス、コーホーサーモン(ギンザケ)、ヒメマス(湖沼型のベニザケ)などの多くが生息している。

 芦ノ湖には上述のトラウトたちが産卵するのに適した流入河川がほぼないことから、自然繁殖する個体はほとんどいないとされている。このため芦ノ湖で釣れるトラウトは基本的にはすべて放流由来のものということになる。

数は少ないがトラウトが産卵のために集まる流入河川が存在する。もちろんここでの釣りは禁止

 放流魚と聞くと、ヒレが欠けていたり鼻先が丸まっていたりする「成魚放流(せいぎょほうりゅう)」を想像するかもしれない。確かにひと昔前までの芦ノ湖ではそのような魚が多かった。しかし近年は野性味のある綺麗な魚を釣りたいという釣り人の嗜好変化などがあり、そうしたニーズに合わせて同じ放流でも「稚魚放流(ちぎょほうりゅう)」の割合が高くなっている。

 成魚放流は、養魚場で長期間にわたり人工餌を与えられ育てられてきた魚であるため、湖に放流されても自力で餌を獲るのが難しく、大きな個体ほど長く生きられないと言われている。これに対して稚魚の段階で放流された魚は人に育てられた期間が短いため、湖に放たれた後でも適応が可能で、すぐに自力で餌を獲るようになり湖の生態系で成長していく。自然界の厳しい生存競争のなかを生き延びていくため、とてもパワフルで姿形も素晴らしい。芦ノ湖はそんな野生化したトラウトが狙える貴重なフィールドである。 

■「寒風・つらい・報われない」 晩秋の芦ノ湖はまさに「演歌の世界」

釣行の朝に見られた気嵐(けあらし)。水温より気温が低いため湖面に霧が発生する

 野生化したトラウトが増えるのは嬉しいことだが、それはイコール「警戒心の強い魚が増える」という意味でもある。特に晩秋、岸から狙うキャスティングの釣りはより難易度が高くなる。

 晩秋に釣りが難しくなる最大の理由を、岸寄りするトラウトの数が圧倒的に少ないためだと筆者は考えている。春はトラウトたちの主要な餌となるワカサギの接岸(産卵のための接岸)がきっかけとなり、多くのトラウトたちが岸寄りするが、秋にそのようなイベントはほぼ無いのである。

 冷たい北風が吹きつけるなか、全身に水飛沫を浴びて、夜明け前から日没まで何百回とキャストを繰り返してもアタリすらないことが当たり前。

 けれど過去には度肝を抜かれるようなビックトラウトと出会ったこともある。もしかすると次のキャストでその魚が釣れるかもしれない。今日はダメでも来週は釣れるかもしれない。釣りをしない人が聞いたらきっと呆れてしまう行動だが、これが筆者も含めた芦ノ湖の釣りにハマっているアングラーの思考回路なのである。

 吹き付ける北風、辛いできごと、報われない想い、それでもやはり彼女(彼)を諦めきれない…。晩秋の芦ノ湖の釣りは「演歌の世界」そのものといってもいいだろう。

■ビックトラウトに近づくためのヒント

ワカサギは芦ノ湖のトラウトたちにとっての主食

 釣りを考えるうえで、狙いの魚がいまどんなエサを食べているのかを考えることはとても重要である。過去に県の水産試験場や大学機関が行った調査によると、芦ノ湖に生息するトラウトたちの胃の内容物のほとんどはワカサギだったという報告がいくつもある。これを考えると秋のワカサギの動向が気になってくるというものだ。

 芦ノ湖でボートからのワカサギ釣りを経験したことのある方ならご存じだと思うが、秋のワカサギは沖にある水深10~20mの深い場所に群れている。ワカサギを餌としているトラウトたちもおそらく水深の深い場所でワカサギを食べようと狙っているのではないだろうか。

数年前の11月に芦ノ湖でワカサギ釣りをした際の魚探映像。水深12~18mにワカサギの大きな群れが映っている

 そうだとすると、トラウトたちは水深の浅い岸近くには寄ってこないことになる。この事実を知ってしまうと、岸からトラウトを狙うのはもう絶望的と思うかもしれないが、実はそうでもないのである。

 これは芦ノ湖でワカサギの刺し網漁(毎年10月1日~12月禁漁まで操業)をしている漁業者から聞いた話なのだが、秋のワカサギは夜の暗い時間帯は湖の水面近くまで浮いてくるという。刺し網漁は夜明け前の暗い時間帯に行われており、その際に水面をライトで照らすと無数のワカサギを目撃できるそうだ(そのワカサギを狙うトラウトの姿もよく見かけるとのこと)。

 ワカサギが水面近くまで浮いてくる場所は、岸から遠く離れた沖合だけでなく、岸近くのこともあるそう。そのような場所を見つけられればトラウトもいる筈なので、岸から狙う釣りでも勝機は十分にあるだろう。芦ノ湖では日の出1時間前~日没1時間後まで釣りが楽しめるので、朝夕のマヅメ時が大きなチャンスタイムであることを覚えておくといい釣りができるかもしれない。また芦ノ湖では高水温となる夏場以外はワカサギが水面近くまで浮く傾向があるが、特に秋はこの現象が顕著に現れる。