7月中旬、思わぬタイミングで関東が梅雨明けしたとの報道があった。今年の梅雨入りは例年になく遅かったから、明けるのはもう少し先のことだろうと不覚にも油断していた。

 この原稿が出る頃には、今年最初の夏山縦走で山に入る。一週間前の天気予報は絶望的だったけれど、そういえば、いつの間にか好転の兆し。日常のことにバタバタしながらも、こんなふうに夏山モードへと突入していくことだけは、気まぐれな梅雨とは違って毎年変わらない。

 梅雨明けの前後は、決まって森を歩きに出かける。標高の低い歩き出しは気温が高いから汗をかくのにいい環境だし、高度を上げるにつれて風の涼しさでリフレッシュもできる。夏山に向けて調整してきた身体の最終チェックとしては、そんな山行がちょうどいい。

 たとえば、ぼくの場合は長大な尾根と沢が素晴らしい奥多摩や奥秩父、起伏に富んだ複雑な地形の山が多い北関東、そして森と海に囲まれた伊豆半島あたりの森が候補となる。なかでも、天城峠から八丁池にかけて広がる伊豆特有の森は初夏が気持ちよく、折に触れて足を運んでいる。

■森の上に水を湛える“天城の瞳”に会いに行く

天然記念物「モリアオガエル」の生息地としても知られる八丁池。富士山もぴょこ!

 天城山の西にある八丁池は、標高1,170m付近の森の中に突如として現れる山上の池だ。別名を「天城の瞳」とか「伊豆の瞳」と呼ばれるだけあって、なんだかやさしい雰囲気に包まれた神秘的な場所。標高が比較的高く、東西にあたたかい海があること、さらに風が強く吹き抜ける台地のような地形ゆえに、水面はさざ波でよく揺れている。

 すぐ近くには展望台があり、ここからの眺めは抜群である。眼下に八丁池がなみなみと水を湛え、上空の白い雲を水面に映す。雲が湧きたつと気がつきにくいけれど、その向こうには富士山の姿もチラリ。こういうところが伊豆らしい。

 直射日光を浴びればもちろん暑いものの、木陰に入って風にあたるのは最高に気持ちがいい。鬱蒼とした森は土や樹木の匂いに満ちている。さまざまな自然からのシグナルをたっぷり全身で受けとめて、日ごろのストレスで鈍化した五感を呼び覚ますのだ。