今回筆者が訪れたのは、兵庫県丹波篠山市に位置する標高648mの愛宕山(あたごやま・あたごさん)。もちろん山頂を目指すが、愛宕山を訪れた目的は登頂ではなかった。今の時期しか見られない絶景を求めて、山に分け入ったのである。

■山の中に現れる黄色い世界

もう少しで満開の愛宕山のミツマタ
枝の先が3つに分かれているのでミツマタという

 今の時期しか見られない絶景とは、3月中旬から4月中旬にかけて咲くミツマタ。ミツマタは黄色い花をつける和紙の原料になる木である。枝の先が3つに分かれているのでミツマタという。

 愛宕山では山の斜面にミツマタが群生しており、花期になると黄色に染まる非日常的な絶景を求め、多くの登山客が愛宕山にやってくる。

■愛宕山と龍蔵寺

愛宕山「中央ルート」の石垣と石段
愛宕山「中央ルート」のお地蔵さん
愛宕山「中央ルート」、愛宕堂の石垣

 愛宕山は山中に武士から信仰が厚かった「勝軍地蔵尊(しょうぐんじぞうそん)」を祀る山。そして、愛宕山中腹にある飛鳥時代創建の龍蔵寺(りゅうぞうじ)は僧兵がいた寺だ。室町時代には三好長慶(みよしながよし)に攻め落とされている。愛宕山中で多く見かける石垣は、当時の要塞跡なのかもしれない。

愛宕山と龍蔵寺(国土地理院地図より引用)

 愛宕山の主な登山ルートは「東ルート」「中央ルート」「南ルート」の3本である。今回は龍蔵寺から出発し、「中央ルート」を使って愛宕山に登り「東ルート」で降りるコースを選択した。

■愛宕山「中央ルート」

愛宕山「中央ルート」入口
愛宕山「中央ルート」の石垣は古い
愛宕山「中央ルート」にある愛宕堂の鳥居と石段。人気の撮影スポットだ

 「中央ルート」の魅力は、古い愛宕堂(あたごどう)参道の石段と愛宕堂である。古い石垣と石段がとても美しい。愛宕堂下の鳥居と石段は立入禁止のため、苔むしているさまがきれいに保存されている。一年を通してこの情緒ある風景を撮影するため、多くの人が訪れているようだ。写真映えのするスポットである。

愛宕山「中央ルート」にある愛宕堂。「勝軍地蔵尊」が祀られている
愛宕山「中央ルート」愛宕堂から下をのぞく
愛宕山「中央ルート」後半の急登。奥のまっすぐな木を見れば傾斜がよくわかる

 「中央ルート」の後半は、急な傾斜が続く。この急登はロープが設置されているものの、落ち葉も多く壁のような坂なので、滑落に注意が必要だ。したがってそんな急坂の下りはかなり危険。「中央ルート」は、登り専用と思っておいたほうがよい。

愛宕山山頂手前からの眺望
互いが見えるくらい展望スポットと愛宕山山頂は近い
愛宕山山頂

 急登を登りきると、「東ルート」と山頂へのルートとの分岐に至る。分岐から山頂までは5分程度。山頂からの眺望はないが、山頂手前からは篠山盆地を眺める景色が広がっている。

■愛宕山「東ルート」

愛宕山「東ルート」、前半の下り。急だが道がしっかりしていて不安はない
愛宕山「東ルート」は歩きやすい
愛宕山「東ルート」の分岐。出発地点の龍蔵寺を目指す

 「中央ルート」と山頂ルートの分岐から「東ルート」の下りは、しばらく急な下り坂が続く。しかし「中央ルート」ほど急ではなく、転倒の不安は感じない。

 さらに下っていくと龍蔵寺(りゅうぞうじ)方面と母子(もうし)方面の分岐に差し掛かるので、龍蔵寺方面へ進む。分岐からほどなくして、ミツマタの群生地が現れる。

愛宕山「東ルート」にあるミツマタの花のトンネル
愛宕山「中央ルート」のミツマタ。満開も近い
斜面を覆いつくす愛宕山「東ルート」のミツマタ

 山の斜面にびっしりミツマタが生えており、登山道は花のトンネルになっていた。まだ咲き始めたばかりでつぼみが多かったが、4月に入る頃には見頃になるだろう。

愛宕山「東ルート」後半は林道に変わり、さらに歩きやすくなる
愛宕山「東ルート」後半の林道脇にもミツマタがちらほら
龍蔵寺本堂

 なお、このミツマタの群生地から龍蔵寺までは林道となり、より歩きやすくなる。ただし、林道はいくつか分岐があり道標もないため、登山アプリなどを準備しておくと安心だ。

 いずれにせよ「東ルート」は歩きやすく、ミツマタの群生地を通るため、花を目当てに訪れる登山客にはおすすめである。