日高山脈襟裳十勝国立公園にあるカムイエクウチカウシ山は、日本二百名山のなかでも最難関と言われている難しい山である。アイヌ語で「ヒグマが転げ落ちるほど急な山」という意味を持つ山名、カムイエクウチカウシ山の登山ルートの様子を伝えたい。

■日高山脈の憧れの山、カムイエクウチカウシ山

カムイエクウチカウシ山、山頂から日高山脈南方の山々の眺め

 北海道の背骨とも言われる日高山脈。南北におよそ140km続く山脈の、ほぼ真ん中に位置するのがカムイエクウチカウシ山(1,979m)だ。整備された登山道はないが、所々登山道のような踏み跡はある。建設中止となった日高横断道路を歩き、沢装備で札内川(さつないがわ)を登り、急登を登り切って山頂へと至るルートは、まさに日高の山の醍醐味と言える。

 通常は2泊3日の行程でテント泊山行。登りも滝の高巻きなど、クライミング要素も含むため、山の上級者でなければ立ち入ることはできない。また昔からヒグマによる人身事故も起きている、注意が必要な山だ。困難は多いが、それでも頂きを目指す価値のある魅力的な山でもある。

■天候に大きく左右される予定と登山ルートの状況

札内川本流を行く。水量が少なければ容易な沢歩きだが、増水するとその様子は一変する

 カムイエクウチカウシ山が困難な理由は、ルートの険しさだけではない。沢を登って行くため、天候に大きく左右されるのだ。札内川の増水には特に注意が必要で、大雨時の増水がもっとも怖い。大きな山域で山々も急峻、多くの沢が集まる札内川は普段は穏やかだが、増水すると水量は一気に増え、徒渉は不可能になる。予定した日程の中に雨予報があると下山不可能となる危険があり、その判断も難しい。